うさぎのくれたバレエシューズ

あの宮沢(みやざわ)賢治(けんじ)の「セロひきのゴーシュ」を、ふと思(おも)い出(だ)してしまったな。メルヘンタッチだけど、ステキな、パステルカラーの気分(きぶん)のかわいい本(ほん)。きっと女(おんな)の子(こ)が読(よ)むことが多(おお)いだろうけど、ひとつ提案(ていあん)!男(おとこ)の子(こ)たち読(よ)んでみようよ。

女(おんな)の子(こ)向(む)きの本を男(おとこ)の子(こ)が読(よ)む。そして、女心(おんなごころ)なんてえものを読解(どっかい)していく、というのもテではあるな。なんちゃって?いや、あのその。

 

1.ねがい

だれだってねがいはあるんだよね。背(せ)が高(たか)くなりたい、ウサギになりたい、手(て)が五本(ごほん)ほしい、歌手(かしゅ)になりたい、えいがスターになりたい……なんて、ね。けれど、ねがったってかなうもんじゃない。じゃあねがうことをやめるか。いやそれでも人(ひと)はねがってしまう、そのねがいに近(ちか)づこうとして、いろんな努力(どりょく)をする。そして、ねがったことのいくつかは手(て)にはいる。そしていくつかは、あきらめていくようになる。

ねがいをもっている人(ひと)、何(なに)かがうまくなりたいと思(おも)っている人(ひと)、そんな人(ひと)が、自分(じぶん)とてらし合(あ)わせながら読(よ)んでいくといいかもしれない。

 

2.ねがいの実現(じつげん)

どうしたらねがいごとがかなうのか。もちろんそこでは、シンデレラみたいな場合(ばあい)とか、運命(うんめい)とか、助(たす)けた人(ひと)に助(たす)けられるとかあるけれど、けっきょくは、自分(じぶん)でやっていくしかない。それをどうやればいいのか、何(なに)が大切(たいせつ)なんだろうと考(かんが)えてみるといいね。

 

3.手(て)をあわせる

しぜんと人(ひと)は、ほかのちからをあてにしたり、少(すく)なくともわかってほしいと思(おも)ってしまうもののようです。神様(かみさま)にも、オバケさまにも、星(ほし)にも、月(つき)にもおいのりをしたくなっていきます。

それは、ひとつのねがいをもつ人の、しぜんのすがたなのかもしれません。

それでどうなるか、というよりも、そうしないではいられない気(き)もちの方(ほう)こそ、またそうまでしていこうとする心(こころ)こそ、目(め)を向(む)けるところかもしれませんね。

 

4.すき

うまいかどうかは人(ひと)の見方(みかた)だし、価値(かち)の基準(きじゅん)によってちがってくる。大切(たいせつ)なのは、すきかどうかだ。それが中心(ちゅうしん)となるといいね。ねがうのは、それがすきだから、もっとすきに、もっとすきだから楽(たの)しく、上手(じょうず)に……と思(おも)うんじゃないかな。

 

5.上手(じょうず)

この本(ほん)全体(ぜんたい)を通(つう)じて、問(と)いかけていることの一(ひと)つに、それがあると思(おも)う。

上手(じょうず)って、どういうふうなことをいうんだろう。

すきであれば楽(たの)しくそして明(あか)るく、何(なに)ものにもじゃまされず、だれの目(め)も気(き)にせずに、自分(じぶん)なりにやっていくこと。そのつみ重(かさ)ねのなかにあるようにも思(おも)うし、上手(じょうず)にと思わずにやっていくことが、いいということもあると思(おも)う。また、上手(じょうず)になろうとする気(き)もちを、かえていくことも大切(たいせつ)かもしれない。いのるより念(ねん)じるよりすることの方(ほう)が、大切(たいせつ)かもしれない……ここには、とても大切(たいせつ)なものがかくされているように思(おも)う。さがしてごらん。それがみつかれば、感想(かんそう)文(ぶん)はオーケー。

 

6.プレゼント

山(やま)のくつやからきたバレエシューズとは、いったいなんのことか。もちろんこのお話(はなし)では、それがきたんだけどね。それをおきかえてみることをしてみよう。深(ふか)く読(よ)んでいくために、おきかえてみることは、この本の場合(ばあい)ひつようだ。

 

7.絵(え)

いいよね、これ。みどりがベースの森(もり)、ピンク、それといっぱいのものがつまっている感(かん)じ。ひとつひとつをみてごらん。絵(え)のかき手(て)の考(かんが)え、心(こころ)がみえるようだよね。

大(おお)きな自然(しぜん)のなかでポツンとひとり、ねがっているすがた、森(もり)に走(はし)りゆくすがた、次(つ)いで、あかるいくつやと出(で)あうすがた……。暗(くら)い→明(あか)るい、重(おも)い→軽(かる)い、少女(しょうじょ)の心(こころ)をみているようだね。本は、文(ぶん)だけを読(よ)んで感想(かんそう)を書(か)けばいい、というのはもう古(ふる)いし、絵(え)をかく人(ひと)にも失礼(しつれい)だ。両方(りょうほう)mix(ミックス)させてこそ、本。絵(え)を追(お)いつつ、感想(かんそう)文(ぶん)をかいてみるのもいいよね。

 

8.くつや

つまりは、バレエを上手(じょうず)になりたい少女(しょうじょ)は、バレエシューズをつくるプロセスを自分(じぶん)も体験(たいけん)してみた。はたらいた。どうしていやっといわなかったのかな。いわれたとおりにしたのかな。これはヒントとなるね。

そしてできあがって、うさぎバレエ団(だん)のメンバーがはきにくる。そしておどる。これはただの幻想的(げんそうてき)な、ゆめのような世界(せかい)、とだけみるのはつまらない。深(ふか)く重(おも)く意味(いみ)をみつけてみるといいね。

 

9.集団(しゅうだん)

この子(こ)は、どうして上手(じょうず)になったか、というはじめのボクの質問(しつもん)のひとつのこたえ方(かた)、といってもいいね。みんなで楽(たの)しく、やっているうちにのってきてできるようになる、はく手(しゅ)したり、されたり……。そうした「場(ば)」の大切(たいせつ)さ、「人(ひと)」「まわりの演出(えんしゅつ)」ということの大切(たいせつ)さもあるのかな、思(おも)う。

 

10.自然(しぜん)

これもどうしても気(き)になってしまう・つまり、花(はな)は咲(さ)いて、そして風(かぜ)にまう。ウサギはただはねる。チョウはヒラヒラとぶ……。つまりは、そうしたもんだ、それをみてみよう。そこにも、大(おお)きな心(こころ)の成長(せいちょう)のヒントがあるぞ、と言(い)っているようにも思(おも)える。

だから自然(しぜん)にとける、自分(じぶん)も自分(じぶん)のまわりにとけてしまうようになる。そして軽(かる)くなっていく。

これは、ねがいをかけて、なんとか上手(じょうず)になりたいと重(おも)く思(おも)っていたことに比(くら)べたら、すごい変(か)わり方(かた)だよね。これを比(くら)べてみようよ。重要(じゅうよう)なことが、ここにも書(か)かれている。

 

11.感(かん)

けっきょく、この女(おんな)の子(こ)はうまくなっていたのかどうかは、書(か)かれていない。といってそんなことはどうでもいい、ということでかたづけられてはこまる。やはりここが切り口(きりくち)でも大切(たいせつ)なところ。軽(かる)くなって、おかあさんのまえでおどってみせた、この一文(いちぶん)だけで、ハッと感(かん)じてもらわないとこまる。それは君(きみ)のテーマだ。

「感(かん)じ」をからだや心(こころ)でおぼえていて、それになりきっていくことで、いいおどりができることを、少女(しょうじょ)は知(し)ったとみるべきだろうね。

 

12.さて……

セロひきのゴーシュと比較(ひかく)してみるとやはりおもしろいように思(おも)う。何(なに)かがわかる、何(なに)かをつかむと、一気(いっき)に自信(じしん)がわいて、みるみるうまくなっていくということはよくあることだ。少女(しょうじょ)が、じつはうまくなったという

よりも、成長(せいちょう)した、何(なに)かを学(まな)んだ、わかった、としてみた方(ほう)がいいようにも思(おも)う。

アデランスみたいな、使用(しよう)まえと使用(しよう)ごというような考(かんが)え方(かた)は、ちょっとムリがある。

まったくちがえて、〝ゆめ〟〝思(おも)うこと〟〝なりきること〟〝一体(いったい)となること〟〝幻想(げんそう)〟の大切(たいせつ)さを語(かた)るのもいいように思(おも)う。と同時(どうじ)に、そのものの、アブナーイところにも目(め)をつけるといい。あるいは、この少女(しょうじょ)を、けっきょくこの子(こ)はバレエは上達(じょうたつ)しないし、まちがっている、力量(りきりょう)を知(し)るべきだ、という考(かんが)えをもってみてもいい。

料理(りょうり)方法(ほうほう)は、君(きみ)の手(て)のなかにあるぞ。

 

 

※上記の著作権は宮川俊彦にあります。
※無断での転用・転載を禁じます。

※出典:きみにも読書感想文が書けるよ パート2(1・2・3年向)(1990年)

—————————————————————————————————————————————————————————————————————

うさぎのくれたバレエシューズ

安房通子・文 南塚直子・絵 / 峰書店