空のてっぺん銀色の風

ぼく、北島つかさは小学校六年生。ぼくらの小学校は、北海道の東のはしにある。

卒業まであと二か月もないという二月はじめの体育の時間、ぼくはクラスメイトの「おとめ」こと早乙女力をさがしに「かえらずの森」とよばれる森へ行った。

昔から、子どもがこの森に入りこむと二度と帰れなくなるといわれているそうだ。だから、「かえらずの森」。もちろん迷信に決まってる。だけど……。

森の中は不気味だった。暗く、しめっていて、外とは別世界だ。おとめはなんのためにこんなところに?もう帰ろう、こんなところで迷子になったら大変だと思ったそのとき、ぼくが出会ったのは……。

冬の北海道を舞台にえがかれる物語。きみには「銀色の風」が見えるだろうか。

 

◎とっちゃまんのここに注目!

北海道の雪、寒さ、原生林……、そんな絵がうかんでくるね。そう、そういう風景がストーリーのおもしろさをかきたててくれている。もっと言うと、作品の世界そのものが、この物語の表現の素材にもなっている。

作者がどんな場所でストーリーを作り上げているか。これは大切なポイントだよ。ストーリーの展開だけに目を向けていると、何か大きなモノをとらえそこねてしまいそうだ。舞台や風景に注目しよう。

 

・おとめくん

この子がいい。ジャニーズ系かな。ボクとはちょっとだけちがう。それはともかく、まず、この重要人物、おとめという子を読み解きたいね。

おとめはさびしい。孤独だ。家に帰っても、居場所がない。友人もいない。だからといって、積極的に友だちをつくるというタイプではない。静かで、じっと物事を観察しているタイプ。

一方、おとめの姉さんたちは現代っ子的というか、にぎやかだね。そうだ、おとめきょうだいの性格や関係も読解の材料になるよ。「おとめチックな人間は生きにくい世の中なのかな」とか、「姉さんたちのたくましさこそ生きる力だ」とか、でも、姉さんたちは「この子、私たちの守り神みたいなものなのよ」って言ってるなとか。

 

・つかさとおとめ

孤独なおとめはかえらずの森に行く。森に住む神さま、ワラビと話をしていたんだろうな。でも、これ、現実世界からの逃避とも言えるよね。よくあることかもしれないけれど……。

主人公のつかさは、そんなおとめが気になって探しに行く。気になる、そして、行動する。ここがポイント。これ、友情や愛情の基本だもの。「いやなやつ」というのは、じつは「気になるやつ」ということでもある。

きみもふりかえってごらん。はじめに「いやなやつ」と思った相手と友だちになっていたという経験、ないかな。そのあたりから、つかさとおとめの関係を考えていくのもいいね。

成沢のおじいさんとテルヒコ、高杉の兄さんとシュンの関係にも共通しているものがある。そこに――人と人との間に、流れているものは、なんだろうか?「友情っていいな」という程度の読解だと、ちょっと浅いぞ。

 

・シマフクロウとかえらずの森

シマフクロウに変身することって、何を意味しているんだろう?かえらずの森の「かえらず」とは、「どこに」帰らないという意味なんだろう?これも、きみに切りこんでみてほしいテーマだよ。

ほかにも「ワラビとはだれなのか?」とか、「世の中でワラビの役割をになっているのはだれなのか?」とか、あれこれ考えられるよね。

この本、厚みがあって、いろいろな読み方ができるからおもしろい。そうそう、「距離」というキーワードから考えるのもおススメだよ。

シマフクロウは空を飛ぶ。空から自分の世界をながめている。はなれて見るって大事なこと。人と人との関係も、「距離」の関係と言えるんじゃないかな。

 

 

※上記の著作権は宮川俊彦にあります。
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※出典:読書感想文おたすけブック(2005年)

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空のてっぺん銀色の風

ひろはた えりこ・作 せきね ゆき・絵 / 小峰書店