チョコレートと青い空

チョコレートと青い空

堀米薫作 小泉るみ子絵 そうえん社

 

フェアトレードチョコレートという商品に興味を持ってしまった。普通のチョコレートよりも三倍もの値段がする。しかし味は同じである。そう考えるならわざわざ高いものを買う必要はないし、安い方がいいに決まっていると普通は考えてしまう。ところがおそらくこの所に作家がテーマにしてこうとする本当の目的があるように思う。
TPPというのを知っているだろうか。日本にどんどん外国から安いコメが入ってくる。そうしたら世界に比べてやや割高な日本の米作農家は価格でやっていけなくなる。そのためにこの交渉については消費者は安ければよいと考えるが、また政治家たちは海外との経済関係や友好関係からそれを進めようとするが、コメの生産農家にしては死活問題になるから反対だという。まさにここしばらくの日本の国はそういう輸入物と国産ものとの熾烈な戦いの日々を迎えている。作家はそういう今日日本の抱えている農業の問題を根底に据えてこの話を作り、僕らに送り届けている印象がある。所々に農業者の視点、農業者の心などが散りばめられている。そういう所に目を向けて読むことでこのお話はストーリーだけの表面だけで無く、深い文脈があることに気づかされる。それは日本の国というだけでなく、高い安いという価格差の問題だけでなく、農業生産という人類の共通の生産文化にも透徹した目を向ける必要を促している。人は食べなければ生きていけない。そのために採取、狩猟段階から農業へと、そして恒常的な生産を経て安定した社会基盤を作り上げ、歴史社会へと歩んできた。そのプロセスを検証することにもつながる。フェアトレードチョコレートという発想で言うならば、生産者にも十分還元するために割高になることをよしとしなければならないということになる。江戸時代の名奉行、大岡越前の有名な判決(三方一両損)をふと思い起こさせる。これは安ければよいという経済の一般的な考え方に対しての意地を持った、あるいは切実さを持った対極の思考としてあるのかもしれない。この本の中心人物であるエリック氏はガーナから農業体験で来日したエリートと描かれている。帰国して国の農業指導者になるという理想を持っている。昔そういう日本人も多くいて、多く進んだ国々に赴いて科学や文化を吸収してきた。幸い日本は国民の力が堅固であったり、優秀であったことで一応先進国の仲間入りをし、今は低中開発国からのそういう研修生を受け入れるまでになっている。しかし忘れてはならないものがあるというだけでなく、今だからこそ真剣に考えなければならないテーマがそこにも顔をのぞかせている。日常の安楽で快適で便利な生活にどっぷり浸かって知識だけを肥大させて消費者になりきっている多くの日本の国民の姿をこの本を読みながら見つめなおしていくというのはどうだろうか。考えさせる豊富な材料と論点を持っている一冊である。

 

<続きは「とっちゃまんの読書感想文書き方ドリル2012」で>