コカリナの海 -小さな木の笛の物語-

そういえば聞いたことがあるように思う。だってボク、信州で生まれ育ったんだもの。この本はボクには身近に感じられる。信州の地名が出て来るしね。それだけのこと。でもなんだかうれしくなる。

この本の主人公「ゆい」は信州の山之内という町から静岡に転校してきた。この山之内っていうのがなつかしい。ボクの友だちも何人かいる。温泉町なんだよ。そして冬のオリンピック選手がわんさといる。冬のスポーツのさかんなところだ。ついでに言うと、ボクはスキーとかスケートはダメ。足元が落ち着かないスポーツはやらないんだ。はっきり言えばすべれない。

山から海の近くへ。大きな変化とも言えないんだよ。だって地球って山と海だものね。

ボクらは大きな大きな自然の中で生きているんだ。そんなおおらかな、  ビッグな(大きい)、ワイドな(広々とした)、気持ちになってしまう。このストーリー(話)は、よく考えられている。

「コカリナ」って知ってる?

この本を読んだのをきっかけにして、買ってきて練習してみるっていうのもいいね。ボクはそうする。この本が書き上がったら買うんだもん。

そんな気にさせられてしまった。

 

【コカリナ】

正直言ってオカリナっていうのは知っていた。調べたよ、コカリナ。ボクの家の近所に、めずらしい物がたくさんあるお店があるから行ってみた。あったんだなこれが。オカリナの小さいやつっていう感じ。首から下げてペンダントにしてもいいなと思った。

いっそのこと運動会の、あの先生たちがやっている笛なんてやめて、みんなコカリナにするといいのに。ほのぼのとしてくると思うな。

この話はやはりコカリナが中心だ。おいしくて、食べごたえのあるメイン デッシュだ。最初から最後までコカリナの音色が流れている。かっこよく言えば「コカリナのメロディーとリズムに乗ってこの話は進んでいきます」、とかなんとか言っちゃったりして。

しかもとくべつなわけがあってのもの。二百年も生きたイタヤカエデの大木が切りたおされて、それから作ったもの。二千本ものコカリナができた。すごいよね。つまりは、生まれ変わった。

そこから奏でられる音は、木の声。自然の声。

主人公の「ゆい」はそれをイタヤカエデの木の思い出というだけでなく、  ふるさとに生きた「あかし」として、自分の生きた記録として、たから物に  している。しかもだいじにしまいこんで、カギをかけるのではなく、いつも身につけている。そして吹いている。

あの、転校したときに、みんなの前で自己紹介のかわりに吹いたでしょう。あれが象ちょう的。また、コカリナの音色で心をとざしていたしょう君のおじいさんも、なにかよみがえった感じがするよね。これも象ちょう的。

こうしたポイントをおさえていくと、コカリナはただの楽器ではなくなっていく。もっともそう言ってしまえばバイオリンやピアノがおこるかもしれない。

「ボクたちの立場は……」とかなんとか言ってさ。

コカリナってなにか。このストーリーの中で、どういう意味のあるもの  なのか。

これを見い出してみよう。読解の中心だと思うよ。

 

【木】

ほかの楽器に気を使っているわけじゃないけれど、えーと、使っている  けれど。

木は人にとってすごく役に立っている。もちろん酸素を作り出すということはあるけれど、家にしたり、橋にしたり、家具にしたり、仏像になったり、たき木にしたり、きのこが生えたり(……どうも発想が低レベルだなあ)、バットになったり、舟になったり、そうそう楽器になったり。木がいっぱいあると「森」。この漢字からして森っぽいものね。森を十個集めた漢字を作ったら「すげえ森」。そんな字を作るといいなあ。

森になると山を守り、いろんな生命を育て、水をためる。ほんとうにお世話になっているんだよね。

「おじいさんは山に行って木を切りました。」と言っていたころはまだいい。

「ブルドーザーは山に行って森を切り開きました。」となると、しかたないかもしれないけれど、だいじょうぶかなと思ってしまう。森という漢字の真ん中へんを消しゴムで、すーっと消してしまう字になっていく。

また植えりゃいいけれど、すぐ育たないからねぇ。

ボクらは木のめぐみを受けて、今も、きっと今後も、「利用」していく。   自分たちにとってだけの、「自分たち中心主義」だよね。「自然を守ろう」なんていうのも、結局は自分たちにとって住みやすい地球にしよう、ということにつながりかねない。ま、人にとって地球規模の公園を作っちゃおうということになるよね。

しかしこれはしょうがない。ボクらは人だものね。いまのところは。その  うち死んじゃえば、うめられてこの地球の土にとけていくんだろうけれど。

このストーリーの中では、イタヤカエデとシイの木と、二本の大木が出てくる。そこに目を向けてみよう。この作者は木をどうあつかっているだろうか。この話の中での木の役わりなどを考えてみるといいよ。

 

【大切】

これもかくれたキーワード。法隆寺というお寺がある。これは世界でもっとも古い、木造の建築物なんだそうだ。

木だよ。それが鉄筋コンクリートよりも長持ちする。なぜだろう。きみの  意見を聞きたいな。

ボクはみんなが守ったんだと思う。大切にしてきたんだと思う。人の心や 考えが、形あるものにとっては、それを守るもっとも力強い、最大のバリアーなんだね。

こわしたくなかったんだよ。

今の時代はひどいよね。「古くなったから建てかえる」ということが、正しいことのように思われている。そして「古い」ものを「新しい」ものに変えていく。

なんかまずしいよね、心が。古いものに「価値」があると、どうしてもっと思えないんだろうか。

大切にしているものはモノじゃなくてその「価値」だよね。つまり大切にしようという「意志」があるんだ。

コカリナはきっと大切にされていく。「価値」があるからだ。その気持ちをみんなが持っていけば、みんなにとってのたから物になる。

この点はどんどん考えを進めていくとおもしろい。物を大切にすることを 考えると、「ゴミ問題」にも行き着くよ。

 

【オリンピック】

あったねー。長野で。「輪になっておどろ」なんていって、もり上がった。

このために長野はいろいろといいこともあって助かったんだよ。新幹線が通った。高速道路も通った。いっぱいしせつができた。世界に名を知られた。

土地の値うちが上がった。道を広くして、アスファルトでほ(・)そう(・・)した。長野県の人たちは、不況の時代でも少しはゆたかになった。その分、今は調子が下がっているけどね。

このイタヤカエデのようなはめになった木はいっぱいあったと思う。

でもムダにしない。それがせめてもの木に対しての「誠意」だよね。「黒坂さん」というのはすごいね。すばらしいね。

明るく楽しい、はなやかなお祭りには、光の当たらないかげ(・・)の部分もある。そのかげ(・・)を明るく照らし、生命をよみがえらせることができたら、これはす  ごい。

切りたおされた木についての、きみの考えがこのへんで語られていくとい いな。

 

【再生】

元阪神タイガース、元東北楽天イーグルスの野村カントクも再生名人だと 言われているよね。「生まれ変わり」ということがよく言われる。なんでもきっと生まれ変わる。家も、タタミも、ゴミも、紙も、人もそうかもしれない。

きみにも何回か「生まれ変わった」と思う時がくるかもしれない。出直し、作り直し、の意味もあるし、進化ということもある。デジモンみたいに。

このストーリーの中では、思いのほか、この「再生」が一つの柱になって  いる。

シロナガスクジラの生まれ変わりという、しょう君のおじいさん。うめられた井戸の水。もちろんコカリナもそう。

いやもっと大きく考えようか。木も土も海も大地もみんな変化していく。 昔海だった、という所はあちこちにある。というかほとんどそうだったとも 言える。

変化していくのが本当のすがた。

きびしく言えば、この「ゆい」のコカリナも一万年はそのままでは持たないように思う。いずれはこわれる。化石にでもすりゃいいんだけど。

そんなかぎりあるものがいとおしい。むねがキュンとなるほどかわいらしい。

 

【出会い】

この作品には「出会い」がたくさんある。イタヤカエデ、カモシカ、黒坂   さん、……、しょうのおじいさんとコカリナ、自然と人間。

そういった中で、このストーリーは、とくに山の子と海の子の「出会い」とも言える。「北原ゆい」と「水島しょう」。二人の名前を見てごらん。工夫しているよね。そして海と山の「出会い」。

このへんからスケールを大きくして考えていくこともできるんじゃない かな。

 

【協力者】

この本のおわりを見てごらん。多くの人の協力があるんだね。ここもまた りっぱな切り口になる。

多くの人がいて、それぞれのせんもん家がいて、そしてそれぞれの願いが あって、この本ができていく。

オリンピックの記念としてのこの本は、大切なメッセージを送ってくれて いる。

いい本だ。それが一つの形になっていくんだね。

 

【開く】

心のドアを開くことがこのストーリーには語られている。水島しょう君も そう。おじいさんの、ふたをしてしまった耳も、とざされた心もそう。

なぜ心を開いたの?

これを考えていけば、感想文のドアーも開かれていくよ。

 

【コカリナでなにを吹いたか。】

曲の名前を調べないでよ。なにを吹いたか。なにを奏でたか。これだね。  いい切り口になるよ。

コカリナのぬくもりのある美しいひびきって、なにを表しているんだろうね。なにを伝えているのかな。

さあ、ここからはきみの自由な考え、つまり「どくそう性」が生まれる。

 

フーつかれた。この作品にはなぜか力が入ってしまった。読みごたえが  あるよ。ほかにもいっぱいあるけどもこのくらいにしとこう。

さぁて、やってみるかな。

 

 

※上記の著作権は宮川俊彦にあります。
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※出典:これできみも読書感想文の名人だ(1999年)

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コカリナの海

-小さな木の笛の物語-

鈴木ゆき江・作 小泉るみ子・絵 / ひくまの出版