ぼくらはみんな生きている -都市動物観察記

「都市には自然がない」とよくいわれる。ところが、この本を開くと、出てくる。バッタ、アズマモグラ、アブラコウモリにリス、カメ、タヌキのファミリー。都市に現れる動物は、おほりのカルガモや、アゴヒゲアザラシの「タマちゃん」ばかりではなかった。「都市は、じつは、とても自然が豊か」で、自然観察にぴったりな場所だという作者は、大都市、東京のど真ん中に住む自然案内人。自然観察のおもしろさ、おくの深さを教えてくれる。

さあ、知られざる都市の生き物たちの世界をのぞいてみよう。きっと、生き物たちのたくましい生態や、自然のからくりにビックリするぞ。きみの「常識」がひっくり返るかもしれない。

 

◎とっちゃまんのここに注目!

読みごたえがある本だ。ナチュラリストの作者の目はするどいな。まず、東京や大阪のような都市にも自然はある、いやむしろ、そうした都市にこそ息づいている自然があるということがわかる。また、自然界にふくまれるはずの人間によって、自然が大きく変えられているという事実もわかる。

昭和の三十年代が大きな曲がり角だったという話には、なるほどと思った。急速に都市化が進み、しかも国が豊かになって、自然と共存するという考え方が大きくくずれてしまったんだね。

この本が投げかけてくれているテーマ、「自然に作用する人間の力」ということを、深~く考えてみたいね。

 

・ボクたちはどうすればいい?

ハイブリッドカモの話にはギョッとした。人によるえづけがカモの混血を進め、子孫を残す力をうばっている、度をこしたえづけは生態を変えるという。

まいった。ボクもユリカモメにハンバーガーをやったことがあるんだ。ユリカモメへの愛が、やつらの野性をうばうことになるなんて。人とそのほかの生き物たちがなかよく共存できる方向に来ていると思っていたのに、ちがってた。

しかしだ。人が生き物を大切にし、共存しようとしている最近の流れは、開発と破壊だけのやり方に比べれば一歩前進だ。今からの調整や修正という形で、よい方向へ向かうことはできないものだろうか。ボクたちはどうすればいい?

 

・現実の重み

世田谷区の一軒の家に閉じこめられたカブトムシやクワガタの話があったね。開発によって雑木林や畑が減って、生息範囲をせばめられた結果だという。また一方には、動物園ビジターの話もあった。さらには、亀戸天神の池のカメ、鎌倉のタイワンリスやアライグマ、「タマちゃん」に「仮面ライダー」のピンチ……。作者は次つぎに都市の生き物たちの現象を示してくれる。圧巻だったね。

これが現実で、問題は単純にはくくりきれないということがよくわかった。現実の重みを読みとって、何が問題かということを、ひとつひとつきちんととらえていきたいな。何をどうすればどうなるかということを、ボクたちはまだ、知らなすぎる気がするんだ。

 

・感想文のポイントは?

常識がひっくり返されたのは、ボクだけじゃないよね?そのオドロキを感想文のモトにしよう。「そうだったのか」というところを出発点にすればいいんだ。

あるいは、反論を試みてみる。たとえば……。

人間は人間の生存のために生きているのであって、ほかの動物のために生きているのではない。人間の都合がほかの動物たちの生態系を変え、絶滅する動物が出てくるとしても、それはそれでしかたがない。自分で変えた環境に適応できなければ、人間だってやがてほろびる。こんな考え方があってもいいんだ。

こんなふうに率直に、きみの意見を述べることが大切。ただし、「ほんとうにそうなのか?」を検証することをわすれずにね。「自然とは何か?」という大きなテーマについて、きみの考えが問われることになるだろう。

この本の感想文は書きがいがある。体験や知識を総動員して取り組もう。

 

 

※上記の著作権は宮川俊彦にあります。
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※出典:読書感想文おたすけブック(2005年)

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ぼくらはみんな生きている

-都市動物観察記

佐々木洋・文・写真 / 講談社