走れ!マスワラ

走れ!マスワラ

グザヴィエ=ローラン・プティ作 浜辺貴絵訳 PHP研究所

 

この本は面白い。読んでいて何度か吹きだしてしまう。そういう巧妙で軽妙な文の運び、場面の展開、心の表し方が卓越している傑作だと思う。今年の課題図書はなかなか力作ぞろいだ。その意味では豊年満作の年だと言っていいのかもしれない。あまりほめることの少ないのがボクの批評だけれど今回はそれぞれの本に深い味わいや生彩がある。いい作品に出合うことはいい読者を育て、優れた読解力を持つ読者はまたいい本を育てていく。今年はかなり一作一作の読みにボクは没入している。一つの特徴はわざとらしさや教条的なところが少なくなったということであろう。読めば読むほど、噛めば噛むほど味わい深くなるような酢昆布のような作品だ。だから思わず良い評価をする言葉をボクも綴ってしまう。そんな年があっても良いのかもしれない。この作品は実にサービス精神に富んでいる。読者を引きずり込み、笑わせ、いつの間にかアフリカのサバンナに立っているような、そんな気分にさせられてしまう。「心の森」の作家が形容的表現の達人だとすれば、この作家は心や感受性において卓越した言葉を持つ作家であるように思える。まずはじっくり読んで名作映画を見ているような気分にたっぷり浸ってくれたらいいと思う。

 

<続きは「とっちゃまんの読書感想文書き方ドリル2012」で>