ヨースケくん ―小学生はいかに生きるべきか―

サブタイトルがいいね。「小学生はいかに生きるべきか」

たしかに物語には「どう生きるか」というテーマが必ずもりこまれている。人は人のことをいつも考えている。作者は人をテーマにしていくからね。

感想文も本当はそうした生き方や人としてのあり方をめぐって、自分と照らし合わせながら、意見を語っていけるようになるといいな。

むずかしくなんかないよね。自分がどうしていけばいいかを自分で考えて いく。これ、当たり前のことだもの。そのヒントとして、考える材料として「本」というものがあると思っていいんだよ。

この本の作者は『ズッコケ三人組』シリーズの作者。さすがに「わかって  るー」という感じだよね。ボクらの本当のところを見て語っているように思う。

いい作品だよ。ボクも一気に読んでしまった。そしていっぱい考えるヒントをもらった。

 

【ヨースケ】

きみは、この子どんな子だと思う?

「ふつう」って、ただ言うのはないかもしれないけれど、やっぱりふつうの、どこにでもいそうな子だよね。「トイレの仕方」なんていうのも思わず笑ってしまう。そうそういるんだよね、こういう子って。

とくに男の子は学校でウンコしにくい。友だちに笑われたりする。

この子っていいやつだ。そしてなんとなくたよりなく、ママには歯が立たず、しかし、なにか大切なことを考えている。思っている。

人からだけじゃない。流れる川から、庭の草木から、となりの席の子から、多くの人から、ヨースケは学ぼうとしている。

そりゃあ、大人のように社会の経験はないと言っても、こんな情報社会だ。耳は肥えていく。きっとボクの時代に比べて、今の小学生が知っていることは大はばにちがうはずだ。きみもそうだよね、きっと。

そして成長していくヨースケ。

この話を通して、きみのつかんだ「ヨースケの人物像」を語ってごらん。  それだけでいい感想文はできるよ。

 

【お母さん】

このストーリーに出てくるお母さんたちというのはなんともリアル(・・・)(現実的)。ボクの知っているお母さんたちとまったく同じだ。きみも感じてるよね。

倉橋君と同じクラスと知るとおもしろくなかったりする。できる子とつき あってほしいと。これまたお母さんの本音だ。

転校生の外山君のお母さんのやり方っていうのもよくあること。親の出る幕じゃないじゃないか、とも思う。お母さん同士が電話しあって、子どもたちのやっていること、やりたいことを変えていってしまう。夜のパトロールもそうだった。

お母さんたちがこういう行動をとるのは、いったいどんな考えがあっての ことだろうか。

子どもにしてみれば「よけいなお世話」。事実そういう面もある。しかし  お母さんにはお母さんの理由がある。それを読み取ってみようよ。当然きみのお母さんと比べていくことも必要だ。

ついでに、と言っちゃあなんだけど、お父さんもね。

ヨースケのお父さんのがまん。怒り。けれど会社はやめない。仕事は続けていく。そんな時にお父さんの「あい感」というのを感じてしまう。

きみのお父さんの背中はどう?はたらくお父さん。がんばっているお父さん。

そんなところにもふれてみるといいと思う。

 

【先生が小さくなる!?】

ここはおもしろい切り口だと思う。

きみにそんな経験はあるだろうか。人の顔が小さくなっていく。

これはなぜだろう。ウーム。

やさしそうな印象の先生は、じつはうるさい「鬼ばばあ」だった。たしかにあれだけお説教を言われていれば、学校とは「がまん」と「先生にたえる(・・・)」   ところかと思ってしまう。

先生の顔がすーと小さくなって、口だけがパクパク。

見ているものが遠くなっていくこと。これは自分が人やものごととの「きょり」をとれるようになったということだろうね。

きみもいつか経験すると思う。ある時、急に、家の前の道がせまくなったり、自分の親が年をとって小さく感じられる時がきっとくる。自分の体も心も大きくなっていく時なんだろうな。

「目の錯覚」?きみにも急に友だちが小さく見えたり、色あせて見えたり、逆にかがやいてすてきに見えたり、ということはなかっただろうか。あったらその時のことを書いてごらん。

遠い・近いということをボクらは感じる。こんなことを言った子がいた。 「遠くに置きたいものと近くに置きたいものがある。それが心のきょり」  だってね。

ヒントになると思うよ。

 

【世代】

これもキーワードになる。

このストーリーは、ヨースケたちの「世代」が中心だけど、お母さんやお父さんの「世代」も登場する。

きわめつけはおばあちゃんだろうね。

おない年の俳優が死ぬ。あと何年生きられるかわかんない。自分もいつかは……、と思って、急に決心して、海外旅行に行く。同じ世代の人たちへの思いってどういうものなのだろうね。

おばあちゃんは、生きている間だけだもの、残り少ない人生を目いっぱい楽しまなくちゃあ、と思っている。したいことをしておかなくちゃ。そんな言葉は考える材料になる。

ヨースケがうまいことを言っている。「宿題をやり終えたあとの残り少ない夏休みを楽しんでいる」ってね。

 

【死ぬということ】

ヨースケは病気の時に「死」について考えているね。これだよ、ポイントは。

きみたちもカゼが長びいた時や、すごく具合が悪い時、いろいろ考えるん じゃないかな。

ヨースケは、「人間が死んだらどうなるのだろう」って考えたね。お父さんが会社をやめるかもしれないという場面では、一家心中なんて話も出てくる。

どう生きるか、ということが考えられるのは、いつかは自分が死んでしまう事実を知るからだよ。

限りある生命。待ったなしで先に進んでいくこの生命。それを知った時に 一日や一時間がとっても大切に思えてくる。

おばあちゃんの行動はそれが背景。そしてこの本の背景でもある。

 

【生きる】

奥さんに逃げられた腹いせで、放火してストレスを解消するやつも登場する。犯人はきっと「生きる」見通しや望みをなくしたのかもしれない。そうなん  だよ。この本の中の登場人物はみんな生きている。

「人間が生きていくということは、いろんな秘密をかかえこむこと」。そんなことも語られている。

いろんなことがあって、あれこれしながら自分の生命を燃やしていく。

そんなことに目をつけて、きみにとって「生きるとはどんなことか」を語ってみたらどうかな。この作品の中の人たちは、一人ひとりが、それぞれ一つの例になっているよ。

 

【がんばる】

さ、ここだ。これが作者の「主張」にもなっている。一番言いたい考えや   意見が「主張」。つまり、「がんばる」ってことをどう考えるかが、メッセージにもなっている。

「がんばらなくてもいいんだよ。」

この言葉はがんばらないといけないと思っている人には、ほっとさせる言葉だね。

じゃあどうすればいいんだろう。そこを考えてほしい。

ボクもがんばらないことに大賛成、という人もいれば、いや、がんばらないとダメだよ、という人もいる。それでいい。きみが考えてくれることで、作者はきっと満足する。問題を出しているんだもの。

きみの考えをきちんと語ってみよう。

適当に、いいかげんにやりゃぁいい、ということ言ってると思う?そうかもしれない。ちがうかもしれない。自然に、きみなりに、ということだよ、とか、自分が納得することができればいいジャンとか。それこそいっぱい考えられていい。

このストーリーを読んで、確実につかんでほしいポイントはここだ。

「がんばってね」……、だって。

 

まだまだいっぱいある。キーワードの宝庫。しかし、この後はきみにまかせる。だいたいのおさえるポイントは示したと思う。

そうそう、きみ自身がヨースケだったね。

ボクが一番好きな場面を教えちゃおうか。

家の縁側で庭をながめながら、この年の夏はもう帰って来ない。夏にゆっくりできるのは今くらいかな、と寝そべって、あれこれと考えをめぐらせているところがあるでしょう。あそこなんだよ。

ボクもいつも同じことをしている。とくにつゆ(・・)時なんかよけいに。

こんなふうにきみにも好きな場面があるはず。そんなところからヨースケを、自分を、語ってみよう。

本当の感想文が書けそうな作品だ。いい本にめぐりあったね。

 

 

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※出典:これできみも読書感想文の名人だ(1999年)

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ヨースケくん

―小学生はいかに生きるべきか―

那須正幹・作 はたこうしろう。絵 / ポプラ社