湊秋作・作 金尾恵子・絵 / 文研出版
標高千五百メートルの清里の森。この森にある一本の木のウロの中で、ニホンヤマネのメス、チッチが冬眠していた。
五月になると、清里にも遅い春がやってきた。チッチが目覚める季節だ。チッチはとてもおなかがすいていた。去年の十一月から何も食べずにねむっていたのだ。しかし、昼問の森にはたくさんの天敵がいる。チッチは夜を待って食べ物を探しに出かける。
夜行性なので、なかなか人間には見ることができないヤマネ。体重が二十グラムにも満たない小さなヤマネ。そんなヤマネの生活ってどんなだろう?ほかのヤマネからはなれてすんでいるチッチは、どうやってオスに出会えるのだろう?そして、ヤマネが「森のスケーター」とよばれるわけは?
◎とっちゃんまんのここに注目!
なるほど、日本の森にはいろんな生き物がいるものだ。ヤマネという動物については、名前は聞いたことがあるものの、何も知らなかった。
この種の本は「定番」ともいえるけど、やはり興味をそそられるね。
・冬眠
冬眠って、いいかえると、体温や心拍をコントロールする生活。自然の環境に合わせて、エネルギーを使わないで、ひと冬をねむって過ごすんだね。
読んでいくと、すごいんだわ、これが。なんでこんなことができるんだろうかと、うなってしまう。驚異だよね。
ボクも冬眠してみたいと思ってしまった。百年ぐらい冬眠して、次の時代を見てみるとか、おもしろそうだと思わないか?千年でもいいなあ(SF映画みたいだ)。目覚めたとき、世界は変わっているだろうか?
人の頭脳はたしかにすぐれていると思う。しかし、冬眠のしくみや、トカゲなどの再生能力、空を飛ぶ能力なんかのことを考えると、そっちの方面では、何か極度におとっているような気がしてくる。
人が技術を開発して、快適さや便利さを獲得すればするほど、人の心や体は弱くなり、抵抗力を失っていくような気がする。
いいのか、人は、このままで?そんなことも考えてしまった。
・忍耐
学者や研究者の仕事って、忍耐だね。ヤマネを観察して追いかけ続けること。その、いい意味でのしつこさって、すごいよな。君たちの自由研究なんかも、このくらい、とことんやれたらいいな。一年、二年と、時間をかけてじっくりと何かに取り組むことこそ大切だと、ボクはつくづく思う。
・観察
なんてったって、いろんなコト――動植物や自然など、あらゆることを知らなければ、ボクらには「世界」の姿が見えない。ボクらはどんなところで、どういうものに囲まれて生きているのか。それを知らなければね。
これは、「動物愛護」とか「自然を大切に」とかいう標語みたいなことをいうためではないよ。そんなの説得力がないし、意味ない。生き物を徹底的に観察し、それについて考え、さらに、生命や自然や人について考えぬくことが必要なんだ。
この本の持っている意味や価値についても、しっかりとらえていきたいものだ。
・生きるということ
ただ、生きる。そして、子孫をつくる。
ヤマネは人の子は産まない。ヤマネの子を産む。生まれたヤマネの子はまた、
それぞれに生きていく。生きるために食べ、戦い、身を守り、かくれ、そして冬眠し、また目覚める。自然界に生まれたものの宿命として生きている。
ヤマネが蜜に喜ぶ場面には、ほっとさせられたね。その一方で、人はずいぶん複雑に生きてるものだなあと思った。現代の人間は、生きているということさえ忘れそうになりながら生きているんじゃないだろうか……。ボクはウームと考えこんでしまった。
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