龍平さんは、海辺の町の「はまなす写真館」の五代目のあるじ。プロのカメラマンになりたくてたまらなかったのに、お父さんが亡くなって急に家を継ぐことになったのです。
そんな龍平さんですから、その朝も「こんな古い写真館なんかつぎたくなかったのに」と文句を言い始めました。そのとき、とつぜん古い古い箱型カメラ「アンソニー」が龍平さんに向かって話し始めたのです!
アンソニーが語るはまなす写真館の歴史とは?
この「海に帰った白い馬」の話のほか、決して客の前に姿を見せない不思議なあるじがやっている写真館の話「薄雲写真館のひみつ」など、七つの連作ファンタジー。
◎とっちゃまんのここに注目!
いい作品だ。この話、何かに似ているなと思った。そう、宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』だ。ゴーシュのもとに毎夜毎夜いろんな動物が現れて、気がつけばゴーシュは名人になっていたっけ。
この物語の龍平君も、いろんなできごとに出会うたびに、力をつけていく。そして写真館のりっぱなあととりになる。
幽霊は出るし、お化けは出るし、魔女も、口をきくカメラもカエルもいる。楽しくて、ちょっと怖くて、じんわりしてしまうストーリー。
全編にメッセージがおりこまれていて、考えさせられることがいっぱい。感想文の傑作が生まれると思うよ。
・写真
百年も続いている老舗の写真館……。すごいね。死んだ人の写真も、その人が若いときの写真も、遠くに過ぎ去った時代の写真も残っているんだ。
最近はかんたんに写真を撮って、すぐに現像できるようになったけど、写真館で撮る記念写真と、便利なDPEショップで現像するスナップ写真とは、かなりちがう。記念写真は、その時間と空間に生きていた自分のあかし。ボクは、「写真を撮ると魂をすいとられる」という感覚、わかる気がするよ。
写らないものが写る。写らないものを写す。これが、プロということかもしれない。人を写すって、魂を写すこと。見えないものも写していくということだものね。
・アンソニー
しゃべるカメラ、アンソニー。こいつはいったい何をもくろんでいるんだろう?龍平君をうまく動かしているね。そして龍平君は写真館の五代目におさまっていく(アンソニーの思うツボ)。
この本におさめられている話は、ひとつひとつが大切なメッセージを伝えている。それを確認していこう。チェックするのはまずここだよ。それらを龍平君がどう理解して、納得していったのか。これも大事。すると、アンソニーの役割も見えてくるかもしれない。
・つながり
山寺のカエルが龍平君に注意を与えていた。プロとして当然身に付けておくべき技術と知恵と姿勢の指導だ。「そんなことも知らないで、プロカメラマンになりたいの?」――カエルの言葉一つ一つに、かくされた意昧がある。
カエルは、龍平君のお父さんの言葉を伝える。みんなが龍平さんに力を貸してくれる。なぜか。年月を経てつちかったつながりがあるからだ。みんなが、つながりの中で生きてきたからだ。
ボクらはともすると、そういうつながりを拒否して自分の力だけで生きていこうとする。その意思も大切だ。しかし、つながりを受け入れることも大事だと思う。たとえば、ボクだったら、家業が写真館だったら絶対に継いで、祖先の魂を受け継ぎたい。祖先の魂をさらに磨きたい。
ようは、どんな環境にいても、いつもゼロからのスタートだと思えばいい、ということなんだ。その意昧で、この主人公は恵まれていると思う。
※上記の著作権は宮川俊彦にあります。
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※出典:読書感想文おたすけブック(2002年)
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アンソニー はまなす写真館の物語
茂市久美子・作 黒井健・絵 / あかね書房