四万十川~あつよしの夏~

主人公の篤(あつ)義(よし)少年は小学三年生。四万十川沿いの集落、津野川で小さな食料品店を営む両親、それを助けるしっかり者の兄、姉と、喧嘩ばかりしている弟と妹の、貧しくも温かい家庭の次男だ。

おとなしすぎる篤義は学校でもよくいじめられる。家で勉強したことがない篤義は成績もオール3。

猫の「キィ」だけが篤義の理解者だ。

そんなある日、キィが子猫を三匹産む。貧しい篤義の家では二匹よりたくさんはかえない。そこで、一匹の子猫がまびきされる(殺される)ことになった。

おとなしくて親に逆らったことのない篤義だが子猫の命を救おうと初めての反抗を試みるが……。

◎とっちゃまんのここに注目!

四万十川、雄大な川。一度はじつくりと下流から上流までのぼってみたい川だ。そして、この物語のタイトルは、その川の名前そのもの。えがかれているのは、そこで生きている人たちが織りなすドラマ。

いい言葉があちこちにちりばめられていて、胸にしみる。ボクはこの作品を書いた作家が好きになってしまった。

・アツくんの成長

五人兄弟の次男のアツくんには気の弱さがある。そしてそのために、人を傷つけることもあると知る。人を傷つけないためには、自分が強くなるしかないということに気づいていくんだよね。

そんなアツくんを、アツくんの父親はゆったりと見ている。この関係、いいよな~。

ボクたちはいろんなことにぶつかる。そして、ぶつかるたびに自分を変えていく。ぶつかることをおそれたり、親から助けられたりばかりしていたら、変わることなんてできないものな。

・やさしさについて

捨てられそうになった子猫や、いじめられている女の子を必死で助けようとするアツくん。そんなことから、ボクは考えた。残酷なやさしさというものも存在するんだなって。

世の中には、切ること、捨てること、つき放すことがやさしさだという場合だってある。それなのにそれができないのは、やさしさではなくて、ただの心の弱さだ。きみの体験にも、こういうことってたくさんあるんじゃないだろうか。

アツくんはそれを学んでいくよね。自分より弱いものを守ろうと、少しずつ強くなっていく。

ただやさしくあればいいというのは、おろかなことだ。同情や行き過ぎた気配りは、相手を傷つける。何がやさしさかを知らなければね。

・さて、ポイントは?

作者はこの川を何に置きかえているんだろう?まずは、そんなところから切りこんでみるといい。この作品、さまざまなエピソードと、川の流れ、そこでの暮らしが織りあげられてできているよね。たとえば、入るときにはきついと思っても、中に入ればどうってことはない、そんな意昧の言葉があった。これ、「川を見てみろよ」ってことだとボクは思った。流れ、蛇行し、深みと浅瀬をかかえ、魚たちをもはぐくむ川。さまざまに姿を変えながら、それでも川はとうとうと流れていく。

それから、アツくんの心も、大きなテーマになる。そこそこで、アツくんの心の中がやさしく語られているよね。

全体の主題は、やさしさ、心、心の弱さ。そこに自然、川の流れ、毎日の暮らし、猫、千代子などのエピソードがからむ。読み方の角度を変えて、深く耕してごらん。アツくんと自分を比べてみたり、きみの今までの体験を盛りこんでみたりしてもいい。きみ自身が自分を語ることが、すらすら書くコツだよ。

 

 

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※出典:読書感想文おたすけブック

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四万十川~あつよしの夏~ 

笹山久三・作 / 河出書房新社