世の中への扉 ピアノはともだち 奇跡のピアニスト 辻井伸行の秘密

世の中への扉 ピアノはともだち 奇跡のピアニスト 辻井伸行の秘密

こうやまのりお作

 

ジャンルとしてはこの本は伝記ものであると同時に定番であるハンディを乗り越えて行く人間のドラマということになる。この本のタイトルにも書かれているがピアニストの辻井伸行君は今や時の人・話題の人であり内外に絶大なファン層を持つ同時代の人物である。その生い立ちやいかにしてハンディを克服したか、あるいはたぐいまれなる才能を開花させていったか、その記録を描いているのが趣旨である。

この種の本は人そのものに焦点を当てている訳だから、ただの感動や賞賛という言葉だけを与えるのでは分析的読解の意味は無い。無論好き嫌いとかあえて批判するなどという必要もない。この世に生を受けた一個の人間として障害があろうと無かろうと、どう自らの境遇や運命に立ち向かって行ったか、立ち向かい続けているか、そこに焦点を当てないと個人礼賛に終わってしまいそこから普遍性を導いてテーマとして掲げることはできなくなってしまう。一読して感じることはこの本の作者はプラス面を強調して語って行こうとする。その意図は十分わかるとして、しかし言外に語られたものだけで無い領域を読み込んで行くことの必要を逆に促しているとも言える。語られることだけに目を奪われてはならない。むしろ語られない所にこそ目を向けて行かないと語られたものをより認識することはできなくなる。この本は稀有な存在としての辻井君を描こうとしているが、ひょっとしたら君たちとは隔絶したところにいるのだよということを意図しているのでなく、この様にしてちゃんと才能豊かに生きていく人生もあるのだよ、そのメッセージをきちんと受け止めることが大切なのだと思う。

 

<続きは「とっちゃまんの読書感想文書き方ドリル2012」で>