八束澄子・作 沢田としき・絵 / 講談社
「こっから先は、ふたりで行け。」
とうさんは、なつきとよしひろを車からおろすと、あっというまに走りさった。
親友の恵理とも、愛犬リンリンとも離ればなれの夏休み――。とうさんの店がうまくいかなくて、なつきたち姉弟は、夏の間、わすれるくらい昔に会ったきりの鳥取のばあちゃんの家にあずけられることになったのだ。
ここで、夏を過ごす――。なつきは覚悟を決めていた。だけど、ばあちゃんの家ってどこよ?顔だってわかるかどうか……。
不安と心配とさみしさをかかえこんだなつきを、どんな日々が待っているのだろうか。
◎とっちゃまんのここに注目!
ズバリ!のタイトルだね。夏の間、ばあちゃんの家に行っていたなつきは、
そこで何を見つけたのだろう?タイトルに焦点をしぼって考えると、感想が一気に深まるよ。
この物語、細部まで細やかな表現や描写がこらされていて、テーマが全体にちりばめられている。しかし、基本は「つながり」だと思う。
・ばあちゃんという人
なつきのばあちゃん、豪快でかっこいい人だね。
「大きいもんが小さいもんを支えるってかぎらんぞ……この世にほかのもんの役にたっとらん生き物はひとつもない。みーんな支えおうて生きとる」。
ばあちゃんのこのせりふに注目だ。海を愛し、海と共に生きてきたこの人は、ひとつひとつの命が支えあって世界を作っていることを知っている。そして、なつきにも影響を与えていく。このばあちゃんの世界観、重要ポイントだよ。
・命綱
命綱という言葉が出てくる。深追いしたいキーワードだ。そこで、提案。ばあちゃんを中心にして、命綱の関係図を作ってごらん。ばあちゃんの命綱は、留さん、実際の命綱、ウェットスーツ、なつきとよしひろ、息子であるとうさん、こねこ、それから、海女の仕事(ほんとに大切な命綱だね)……。
なつきの命綱はなんだろう?とうさんの命綱は?そうやって探っていくと、見えてくるものがある。みんなの命綱はつながっている。そして、つながりこそが命綱なのだ。
・つながり
なつきもばあちゃんも、つながりの中にいる。みんなが関わりあっている。だからこそ、トラブルも悲劇も起こるし、さまざなドラマが生まれる。
人間の社会のできごとをそんな目で見てみると、ほほえましくもあるし、もの悲しくもある。つながりの中で苦しんだり悩んだりすることが、貴重なことにも思えてくる。
人と人とのつながりが希薄になっている時代。親が勝手な都合で子どもを手放すこともあるし、家を出ていく子たちもいる。家族の仮面をつけているだけという場合もある。きみの場合はどうだろう。つながりについて、考えたい。
・リンリンからのメッセージ
忘れてならないのは、犬のリンリン。捨てられて、野良犬軍団のなかで生きていたね。なつきに再会して、目をそらしたよね。泣けてきたな。
リンリンは、姉弟ととうさんの関係や、とうさんとばあちゃんの関係を象徴する存在だ。関係というモノがまた複雑なモノで、切って捨てても、切れるものと切れないものとがあって、一筋縄ではいかないんだけど……。ともかく、リンリンはすでに何かを見切って、自分で生きていく道を選択していた。そして、人の都合でまた引きもどされた。だけど、心までは思い通りにはできない……。
ボクは、リンリンの生き方や孤独が、この本の重要なメッセージになっているように思えてならない。
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