水口博也・文 しろ・絵 / アリス館
これは職業物の一冊だね。課題図書では、毎年の定番テーマだ。
きみは将来、何かをして働くことになる。
大人になったら、だれでも働かないといけないんだ。日本国憲法でも「勤労の義務」というのが定められている。だから、きみも何かの職業につくことになる。
子どものうちは、働く義務はない。だから、将来の夢として、仕事のことを考えることになる。
☆夢がなかなか実現できないのは「なぜ?」
夢を持たないといけない、なんて言われたりもする。
子どものうちはなんにでもなれる可能性があるよといわれたりもする。
だからこそ、ひとつの道を、目標に向かわなきゃ、と言われたりもする。
だれでもみんな夢を持つ。夢をもつのは、子どもの特権だ。
大人はよく「大きくなったらなんになるの?」と聞いたりする。子どもは「野球選手になりたい」「サッカー選手になりたい」などと答える。
みんなが夢を実現できるのなら、この本のような、夢を実現した人の本を、国民だれもが書いてもいいはずだ。でも、こういう本を書ける人は、なんで一部の人だけなのか。
それは、夢を実現する人はめずらしいからだ。
では、夢が実現できないのはなぜか?そこをズバッとみぬいてほしい。
☆「あたりまえ」を考え直してみる
「夢をあきらめるな」こんなスローガンがよく使われる。
よく言われるということは、夢をあきらめる人が多い、ということだね。だから、あきらめなかった人が目立つし、こうやって本も
書ける。
夢を実現した人は、人生の勝者のように語られる。
でもね、本当に夢を実現することはすばらしいことなんだろうか、夢を実現したら、人生に勝ったということなんだろうか。
こういう、あたりまえなことを、あらためて考えてみるといい。
実はボクも夢を実現した人だと言われる。たしかに、あきらめないで一貫していたからね。
ボクにひとつ言えることは「夢を実現すること」は、あんまりむずかしいことではない。しかし「夢を実現し続けること」は、たいへんな努力がいるということだ。
夢を実現した。でも、そこで人生は終わらない。その先がある。
夢を実現するのがいいことなら、そのときそのときで夢を持って、実現したら次の夢にとりかえればいい。
あれもやった、これもやった、そんな実現した夢をたくさん持ちたいのなら、それでもいいだろう。
きみはどう思うだろう。夢は実現したら終わりだろうか?
では、かなえられない夢を持ち続けて、それで新でしまった、そんな生き方はどう思うだろうか。
そんなことも考えてみたらいい。
☆夢を実現するための要素を見つけだす
ばくぜんと「なりたいなあ」と思っているだけでは、夢はなかなか実現できないものだ。
実現のための計画を立てて、戦略を練って、ひとつひとつ具体的に実行していったら、夢の実現までの距離は短くなる。
「何によって、この作者は夢を実現できたのか」この作品から、その具体的な要素を見つけてほしい。
「ねばり強かった」「根性があった」「あきらめなかった」そんな答えだけではダメだ。ほかにも、「人との出会い」「うん」「健康」「経済状態」……あれもこれもたくさんの要素がある。
こうやって、たくさんの要素を見つけて、それぞれを見ていく――これが分析的な読み方だ。
本には書いてないこともある。そこはきみが想像でおぎなっていかないとならない。書いてあることだけを鵜呑(うの)みにしてはならないんだ
今回の課題図書に『犬どろぼう完全計画』という本がある。これは綿密な計画の立て方のいいお手本だ。読んでみるといい。
☆夢について取材しよう
「夢は実現しなくてもいい」そう考えたら、どうなるだろうか。あたりまえのことを、あえて疑問に思ってみるといいんだ。
多くの人が夢をあきらめている。でも、その代わりに何かを手に入れて生きているのかもしれない。
こういうときには取材をしてみるといい。パパやママやおじいちゃん、おばあちゃんに聞いてみたらいいんだ。
「子どものころの夢はなんだった?」、「それはどうなったの?」と聞いたらいい。そして「夢の実現のために努力する人生をどう思うか」と聞いたらいい。
その取材で聞いてきたことが、感想文では大切な材料になる。多くの人をサンプルにすることだ。それが、きみの意見の実証事例になっていく。
☆夢というのはなんだろう
夢の実現のためには、たしかにいろんな要素が絡んでくる。しかし「やろう!」と思って行動しなければ何も実現はしない。それは事実だ。
でも、現実には「まずは学校の勉強」と言われる。塾に行ったりして、成績をあげようとする。偏差値と成績で、人生が決められるような気がしてくる。
みんな子どものときから競馬レースみたいなことをしている。とりあえず、次のレースで勝たないと先はない。だから、将来何をするにしても、先ず今は勉強をしないといけない。
いつしか焦って就職活動をしていくようになる。とりあえず就職できればいい、なんとか正社員に、なんてね。これも夢なんだろうか。
無難に、しかれたレールの上を走っているだけ、予定調和の感じがする。でも、そうしないと生活ができない、生きていくことができない、本当にそう考えている人たちは多い。しかも圧倒的に多い。
なぜこの人は水中カメラマンになれたのか。そこを分析したらいい。
作者は、途中で研究者からカメラマンへと目標を変えている。ここをどう考えるかだね。
なぜ目標を変えたか。
変えるしかなかったのか。それとも変えたかったのか。ここを読み取ってみよう。夢というものの広がりについて、考えられるといい。
☆夢を持て、というのは「なぜ?」
やりたいことを、ずっとやっていける人は幸せだ。
したいことを仕事にして生きていける人は多くない。みんな生活のためとか、子どものためとか、がまんして生活している。
そういう人たちには、夢がないのだろうか。それとも、夢を忘れてしまったのだろうか。現実に夢が飲み込まれてしまったのだろうか。
ちがうんじゃないかな。ボクは、そういう人こそ夢を持っていると思う。夢を持って、そのまま持ち続けているままなのかもしれない。
むしろ、現実に圧迫されたほうが、夢は大きくふくらむものだ。厳しい現実に耐えるための夢、というものがある。
「その夢があるから、今はつらくても生きられる」とかね。夢で現実生活とのバランスをとることもできるんだ。
そうだとしたら、「夢を持て」ということは、社会政策にもなりそうだ。「夢を持て」と言えば、厳しい現実を不満に思わせないで、がまんさせることができるんじゃないだろうか。そこは厳しく追及していい。
どんな人が「子どもは夢を持て」と言っているのだろう。それは、なんのためなんだろうか。
☆作者はクジラのどこが好きなんだろう?
クジラは、陸で生活していた動物が、海にもどって進化したといわれている。海に入ったことで、あの巨体で今日まで生きている。ずっと陸にいたなら、どんな進化をしたんだろう。あるいは絶滅したかもしれない。
海にもどるという、クジラの選択は正しかったのだ。地上最大の動物として君臨している。ゆうぜんとしている。生き物の王者なんだろうね。
ボクは捕鯨禁止運動に賛同しようとは思わないが、クジラを尊ぶ気持ちはわかる。たまたまこの原稿を書いているときに、電話で「くじらベーコンを買いませんか」というセールスがあった。
さすがに二の足を踏んだ。代わりにカニの缶詰を頼むことになった。この本を読みながら、クジラを食べるのはむずかしい。
クジラの潮吹きをあびてみたい。
クジラの生臭い息をかいでみたい。
そんな気持ちにさせられる。
大海原のクジラと筆者。それは調査だったり、取材だったりするけれど、最初にあるのは、やはり好きなんだということだ。そうして太古から人と生き物は関わっている。
そこには、もっといっぱい遊びがあったんだろう。
このクジラに何をイメージできるか。この著者はクジラの何にひかれたんだろうか。その人生を観察してみよう。
この本は、感想文の書き方のいい勉強ができる本だ。
偉人伝などの伝記もそうだが、人の生き方に関する本は、できるだけ分析的に読んでみるといい。
その人の生き方はなぜ可能だったのか?
そのための条件は何か?
その要素をどれだけ引っぱり出せるかに、読解はかかっている。
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※出典:読書感想文書き方ドリル2001(2011年)