こども電車

こども電車

岡田潤・作 / 金の星社

 

『ピーターパン』と『銀河鉄道の夜』、ふたつを合わせたみたいな物語だ。

「こども電車」というのは、きっと本当にある。ボクも乗ったことがある気がする。いやいや、今でもときどき乗っている。

こども電車には、大人になると乗れない。乗れなくなるんじゃなくて、乗ろうとしなくなるんじゃないか。もう子どもじゃないんだから、とね。

 

☆大人と子どもは何がちがう?

世間は子どもに「早く大人になれ」とけしかける。

でもね、子どものままじゃいけないのかな。一生子どものままで生きちゃいけないんだろうか。

ボクはそこがわからない。きみの意見を聞いてみたい。

 

早く大人になって、社会の一員として自覚と責任を持つ必要がある?

でも、子どもにだって責任はある。はたをすれば、ダメな大人より、ずっと自覚と責任感のある子だっている。

大人になって、働くべきだ?

でも、むかしから新聞や牛乳配達などで働く子もいる。家の仕事を手伝っている子もいる。そうやって大人以上にバリバリ働く子もいる。

何が違うんだ?何が子どもと大人の間にある?この作品では、そこを考えてみたい。

きみは、何がふたつを分けると思うだろうか。それを書くことが、この作品の感想文としては、もっともふさわしいと思う。

 

子どもの中にも、子ども電車に乗れる子と乗れない子がいる。その世界にかんたんに入っていける子とそうでない子がいるんだね。作者は、そのちがいを、なんだと言っているだろう。本文から引っ張り出してみよう。

どうしたらみんながこども電車に乗れるか。何かが必要だね。

 

☆こども電車は必要か?

そもそも、こども電車は必要か?

これは、この本に対しての大切な問題提起でもある。この本については「ズッバ」と行こう。

こども電車に乗れたらいい。でも「そうでなくてはならないのか」と考えてみるんだ。

ちょっと厳しい見方をしてみるんだ。「そうありたいものだ」という思いを疑ってみる。

すでに大人になってしまった人の夢じゃないか?

子どもにはもどれないから、なつかしがっているだけじゃないか?

子どものうちは、別に子ども電車なんかに価値はない。乗ったとしてもどうということはない――とね。

 

「子どもは夢があっていい」とか「子どもは自由でいい」などという大人がいる。ボクは「何を言ってるんだろう」と思う。

大人だって夢を持っていい。子ども以上にね。なのに、なぜ「子どもは」と言うのだろう。

子どもは純真で、無邪気(むじゃき)で、世界への好奇心があって、なんでもできるから?それは大人だってそうだ。そうでなくなるかどうかは本人の都合だけなんじゃないかな。

 

☆作者の「こだわり」を見つけよう

実にていねいで気配りのある文章だ。

この作家はちょっとした仕草や目の動きにまで敏感だ。息がつまるくらい、ものごとをつきつめて書いていく人だと思う。

 

なんとなく気まずい三人の関係の描写をよく見てごらん。

作り笑い、探偵のようにこそこそとした行動。気持ち悪いくらい、異様に人間関係に執着(しゅうちゃく)し、気をつかっている。

そういうことをしているときは、こども電車には乗れない。

もっとストレートで率直な人間関係でいいように思うけど、この物語の子どもたちは、みんな腹に一物持っている。気づかい、気配り、そして腹のさぐりあい。

この世界は、大人の世界のミニチュアだ。ヘンにこじれて、理屈っぽくて、異常に気をつかうめんどうくささがあって……。

実際に、今の子ども世界は、大人たちと同じになってきている。

ボクは子どものいじめや自殺の取材をしてきた。そこには大人以上に過酷な人間関係があった。

むかしの子どもたちの牧歌的(ぼっかてき)な世界は消えた、と思った。

大人の世界以上に「こうしなくてはならない」というしばりがある。

「子どもはつらい」

「早く大人になったほうが楽」

取材した子たちも、そう言っていた。

この作者がここまでしつこく、子どもどうしの気配りや配慮の心の内を書く理由がわかってきたかな。

作者のこだわりに、その物語のテーマがあるんだね。そこはもうピーンと きたんじゃないかな。

こども電車には何があるか?こども電車に乗って何をしたか?

それをつかんでごらん。この作品で作者が何をテーマにしたかったかが  きっと見えてくる。

 

この作品を通しているテーマは「想像」だ。

大人になると「想像」が乏(とぼ)しくなり、現実世界だけを気にするようになるということだろうか。それでは、ちょっと単純すぎる。

いつでもこども電車は走っている。老人でも大人でもいつでも乗れる。しかし乗ろうとしない。

こどもに譲っているのかな?

そうではない。自分に素直になれない大人の照れで、乗りたくても乗れない。そんな気がする。

笑われたくないとか、みっともないとか、大人気ないとか、そんなふうに  考えて、人は子どもから大人へ脱却しようとする。

本当は、子どもでいることに未練タラタラなのに。

この作品。ところどころにいっぱいヒントがあるよ。

 

この作品の世界は等身大だ。現代のよくある子どもたちの世界を描いている。子どもどうしの関係や、おたがいの距離の取り方についての描き方がリアルだ。

現代の子たちは友人や人間関係で結構クタクタ。

前はそんなでもなかった。なんでそうなったのだろう。

いじめ、シカト、縁切り……、そんなことは日常茶飯事だ。きみ自身の体験を交えた感想を書けば、この作品の世界とつながることができる。

そうやって、この作品に深く関わるといいと思う。それが、真摯(しんし)な姿勢で描いた作家への、読者としての誠意でもある。

この本では、部分的な感想を重ねてもおもしろくはない。

「子どもっていったい」……、と考えていくことだ。いい作品だよ。子どもらしさについて幻想を持っていないのがいい。ボクはそこが気に入った。

 

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※出典:読書感想文書き方ドリル(2011年)