トムは真夜中の庭で

トムは・とても腹をたてていた。弟と二人でいろんな計画を立てて、夏休みを楽しみにしていたのに、その弟がはしかになってしまった。友だちもなく、たいくつしきっていたトムは、おじさんとおばさんのところで夏休みをすごすはめになってしまったのだ。

おじさんとおばさんの家で、トムは不思議な体験をする。眠りにつけない 真夜中、ホールの大時計が、ボーン、ボーン…と、現実にはありえない十三時を打ったことに気がついたのだ!しかし、朝になってみると、真夜中のできごとは夢になっていた。

トムは弟にゆうべあったことを残らず手紙に書きながら、どんなわけなのか絶対見つけ出してやろう、と決心した。

◎とっちゃまんのここに注目!

「時間」がテーマだよね。タイムトンネルというか、タイムスリップと   いうか。そうそう、宇宙は無限に広がり、重なっているというとらえ方も   できるかな。今、この時間は、一つだけじゃない、いろんな時間や空間が   何本も何列も重なり合っているというような。もしかしたらボクだって、  異次元ではどこかの国の王子様をやっているかもしれない。そんな不思議な 思いにとらわれてしまうよね。

それにしてもよくできた作品だ。場面が生き生きとしているし、いろんな ことが考えぬかれている。すごい作者だなと思った。

ありっこない?

この本、好きだな。トムの側もいいけれど、おばあさんの側――子どもの  ころの思い出の中に現実のトムがいるという記憶を持った――もいいね。なんとも切ない。そして、考えさせられる。

おばあさんはいうね、「あのとき私はあなたを見ていたのよ」って。過去の時代の人が現在の人を見かける。君はありっこないと思うだろうか?ボクに とってはアリだな。世の中にはミョウなこと、不思議なことがいっぱいある。むしろ、わからないことのほうが多い。それに何より、このストーリーの切なさにひかれてしまう。

・時間

トムとおばあさんがだき合う。いいシーンだね。愛があれば、年の差なんて、かな。

トムにとっては現在のこと。おばあさんにとっては、過去のこと。ボクは「時がない」ということについて考えこんでしまった。

トムもずっと「時」について考えていた。トムがいう「時」とはどういう   意味のものだったんだろう。

君の意見が聞きたいところだけれど、これはけっこうむずかしい問題だ。 ともかく、「時」って一つじゃない。時計で計るだけの単純なモノではなくて、いろんなとらえ方や考え方があるものだということを知ってくれたらうれ しい。

ボクの考え。川の流れとにたモノ、ということではなさそうだ。逆流もあるだろうし、枝分かれした支流もありそうだ。「時」って何だろうと考えるだけでもあきることがないと思う。

・真夜中、十三時

これはこだわるべきところ。十三時とは二十五時でもある。二十四時は  シンデレラの魔法も解けてしまう時刻で、日が変わる分岐点だ。しかし、その一時間後の十三時、二十五時は、時計盤には存在しない時間だ。これって、  どういうこと?そして、時計盤の上には表されない、エアポケットのような この時間に、じつはいろんなドラマが生まれるんだよね。

ボクたちの生活の中にもエアポケットはある。二十五時は存在する。そう 考えたら、おもしろい。

ボクらの心の中には、他人には計れない時間が存在するんだよね。それは、秘密だったり、思い出だったり、夢だったりする。

君の二十五時には、どんなドラマが起こるんだろう?

 

 

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※出典:読書感想文おたすけブック

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トムは真夜中の庭で

フィリパ・ピアス・作 高杉一郎・訳 / 岩波書店