すごい人がいるよね。一読して感じたのはこのこと。何回失敗しても最後には成功させてしまう。
この本を読んでから、ボクはトマトやいろいろな野菜を、ちょっとちがった目で見ることができるようになった。
害虫。益虫。
これは単純なものじゃないんだね。
みんなが生きあっていく「共生」の世界。この本を読むといろいろなことが見えてくる。理科の勉強としても最適だよね。
【農業】
日本では、農業をやっているというと、なにか土くさく、古くさく、カッコ悪いような印象を持つ人たちがいる。
だから、これまではさっさと農業をやめたり、あとをつぐのをやめて都会に出て行って働いたという若い人が多かった。
日本の農業はだんだんさびれていった。農業をするお年よりの割合が増えて、人手不足が問題になっている。日本は食料自給率が四割。こんな先進国はないね。世界中がききん(・・・)になったらどうなるのだろう。
お金があっても食べる物がない、買えない、という時代がいつ来てもおかしくない。こういう点からも農業は大切なんだ。人々が生き残っていくために、なくてはならない仕事なんだな。
きみは農業をやろうと思うだろうか。本当はそういう人たちがいっぱい育っていくといいんだよね。ボランティアもお年よりのかいごも大切だけど、農業にはなかなか目が向かない人が多い。
農家のファーブル、石川さんは、お父さんのあとをつぐ。そして農業よりも工業という時代の中で、農業に夢を持ち、農業にうちこみ、農業に従事する者として生きていく。そして、成果(よい結果)を上げていく。
一人の人間が、どうやって生きていこうかと決めるとき、つまり、人生の選たくとか、生き方についてはテーマになっていくと思う。
この本の中心は確かに農薬にたよらない害虫退治。そのやり方やようす、考え方に、きっと多くの人は目をうばわれる。
けれど肝心(大切)なことは、なぜ農薬を使わないで害虫退治をするのか、しようとしているのか、ということにある。もっと言えば、そうしていかなくてはならない、という事情もある。
書かれていることだけでなく、その努力の背景にあるものに目を向けていくといいと思う。
努力、そしてその背景、といったテーマで、自分の両親や、知っている人、農業以外の世界であっても、一つの道をがんばっている人などについて書いていくのもいい。比べることができるし、そこから、「もし自分ならば……」と考えていくこともできる。
こういうふうに考えたり、思いをめぐらせていくのは、本を読む時の基本だと思うな。
「比べる作戦」「もしも作戦」だね。
【農薬】
こわいんだね。農薬は人に害をおよぼすだけではなく、土をダメにしてしまう。
生き物がみんなうまい具合に集まってなんとかバランス(つりあい)がとれている。
作物がしっかりとした売り物になるために、気を使って工夫をしていけばほかの何かがダメになる。薬というものの持っている力とともに、その限界もわかっていくよね。
ボクらが使っているカゼの薬とか、頭痛の薬とか、思わず、「だ、だいじょうぶかなぁ」なんて思ってしまう。
もっともっと薬について知らなければならないよね。
石川さんはなぜ農薬を止めたか。そこをじっくりと考えてごらん。
天敵である虫を使って害虫を退治していく。ここにいくまでのいきさつを、じっさいに起きた事実とその時の考えとを合わせて、整理してみるといいよ。
「メモ作戦」は活用していいな。このくらいの中身のある本になると、ざっと読んで、さぁ書こうということは、むずかしいんじゃないかな。
感想文を書くために、ただ読むだけではなく、読み方を工夫して、気になるところやテーマになりそうなところをきちんとわけておく必要がありそうだ。
【天敵】
ヘビとカエル。ヘビにタカ。これにはかなわないというものがあるんだよね。
その生き物にとって、おそろしい敵になる生き物「天敵」について、あちこち調べてみるといいかもしれない。パパにはママとか!?
強い・弱いという関係。これは生き物の世界では絶対みたいだ。
人はどうだろう。
人の世界にもある。
そのために武器や技や、弱い自分を強くしていく道具や方法を作り続けた。
力の関係だけではない。苦手な人とか相性が悪い人、かなわない人とかにげ出したくなる相手。
この本の話でいけば、おいしい野菜を作りたい、農薬を使いたくない、といった石川さんの願いを、ぼう害していく虫たちは天敵だよね。
それに対して、石川さんは、知恵としんぼう、ものすごい研究心と観察力で、天敵=害虫を退治して、夢を実現していく。
カエルだって、知恵でヘビに勝っていいんだよね。
天敵というものについて、虫の世界での小さな意味だけではなく、はば広い意味で考えていくといいと思うな。
【タイトル】
なぜ『ファーブル』とつけたかわかるだろうか。
石川さんは、このオンシツツヤコバチと出会って、しかもうまく成功させていくために、何をしたかを考えてみようよ。
てっていした観察、実験。
自分の目で、温室の中で何年もかかって、発見したんだ。人に言われた通りにやったのでもない。なぜ、どうして、どうしたら、と「ついきゅう」をし続けたよね。
これが学者・研究者の本当の姿。学問は実際に役に立てるためにある。石川さんのこの姿勢がすごいんだよね。
専門的な知識を持った、大学の先生や研究者の集まった研究会で、発表をしてしまうほどだ。
イチゴの杉山さんや、みぢかな天敵を使った深津さんもいたね。
農業だけでなく、こういうふうに、実際に自分でいろいろと取り組みながら仕事をしている人たちのことをどんどん知りたいね。
世界が進んでいくことが実感できる。コンピューター社会だけど、そういう機械の進化とはちがうものがここにはある。もちろん土台は人の知恵。そして、ひたむきさかな。
どう思う?
【トマト】
心から食べてみたいと思った。
生産している人たちのこのしんけんさを考えれば、値段だけを見て、形だけを見て、買うとか残してしまうとかいうことを、ちょっとはずかしく思うようになる。
でも、読者はきっとこう書くだろうな。「食べる物を大切にします」ってね。それもいい。しかしそれだけにとどまらない何かがほしい。
少しちがった見方はできないかな。
ボクは、ちょっとこわいという気もしてしまった。
いいトマトを作るための努力は、絶賛(ぜっさん)以外の何ものでもないよね。
しかし、ここで、「あまのじゃく作戦」。
自然に作った物のようでいて、実はこれは自然なんだろうか、という疑問もわく。
温室。そして適度に配置した虫。完全なトマトを作るための、いわば自然ににせたバーチャル空間。このことをどう思う。
ボクらは、自然の中で共生していくということを、未来への選たくの一つとしている。そこでちょっと立ち止まって考えてみる。
害虫は何にとっての害虫か?
トマトの成育にとって、そして、いいトマトを商品として売るということに対しての害虫。
この害虫たちは、害虫として生きているんじゃない。害虫になるために生まれたわけじゃない。地球の命が始まって以来、生まれ続いた、命をわけあった仲間として存在している。そして、「虫」として生きている。でも、「害虫」として追い払われ、殺される。
人はやはり、人にとってのいい「かんきょう」を求めるために、自然を利用していくんだね。そして、自然を利用するということは、自然の仕組みを利用していくことにつながるんだ、と思った。
この温室はこれからの地球かもしれない。人類発展の基地なのかもしれない。
害虫がもしぜつめつしたら……。いやーな生き物、ダニとかゴキブリとかが、みんないなくなったらいいんだろうか。
この本はもう一方でそういうテーマも投げかけている。
ホラホラホラ、だんだん深まるとっちゃまん。
な、本っていうのはおくが深いだろう。
文章を読みながら、その先やそのまわりにあることを読み取るんだよ。
きみは温室の中のトマトかな。
ボクは、自分がいろいろな虫と付き合いながらも負けないトマトになりたい、と思ってしまった。
トマトだって戦っているんだ。でも弱いところもあるね。デリケートなんだね。人がいなくなったら、なくなっちゃいそう。
石川さんの行動や取り組みから、ボクらは多くのことを学ぶ必要がある。
疑問や批判があってもいいんだよ。石川さんはそれもキチンも受けとめて、次に向かっていく人だもの。
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※出典:これできみも読書感想文の名人だ(2000年)
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ぼくは農家のファーブルだ
トマトを守る小さな虫たち
谷本雄治・作 / 岩崎書店