タイトル(題名)だけ言ったらボクの大学の教え子が「そうなんですよ。しゅうしょく先を見つけるのがたいへんで……」。
ボクは思わず、ことばをなくしてしまった。「きゅうしょく(給食)」ということばのひびきが「求職(きゅうしょく)」に聞こえるところを見ると、やはりこの子もしゅうしょくから頭がはなれないんだとしんみりしてしまった。
その大学生がこれを読んで大うけ。
「先生っ、いいっすよ、この本。感動っすよ。むずかしいことやってんですね。へぇー」と言っていた。
たいじょうぶかなー。そういえばライギョににた顔だなー。
【じかんわりひょう】
ライギョ学級のじかんわりひょうを見て、小学校二年生のボクのむすめが思わず、「いいなー」。
きゅうしょくの食べかた、ばっかり。そしてたまごの生みかた、そだてかた。
たしかにさいこうだよね。こればかりやっていたら生きていくことはできる。
なんたって池の中の魚。生きていかなきゃならない。そのためには食べなきゃならない。そしてしそん(・・・)をのこしていかなきゃならない。
それでいいんだよね。いやいやそれこそが勉強だよね。
生きる。食べる。生む。そだてる。これだよ。
人はどうかな。さぁてここだ。ここできみの考えがもとめられる。きみのじかんわり。きみの学校での勉強。くらべてみようよ。そこできみが思ったことを書くといいんだ。
ちなみにタナゴは「にげかた」が勉強になっている。なぜだかわかるよね。
そう、これも「生きる」こと。自然の中で生きるものたちのこの勉強。考えさせられるよね。
【ちがい】
ライギョとタナゴはちがう。なにが?大きさ。ほかにもある。見つけてみようよ。そうやってくらべていくことが、この本をいっそうふかく読んでいくことにつながる。
自然の中で生きていくものは、食べあっている。
小さい魚は大きな魚に食べられる。
大きな魚はもっと大きな魚に食べられる。
その大きな魚はもっともっと大きな魚に食べられる。
その大きな魚だって小さな魚の集団におそわれて食べられてしまうことだってある。ピラニアなんてすごいよね。
ライギョは食べる。タナゴは食べられる。だからライギョは食べるための勉強をして、タナゴは食べられないでにげるための勉強をする。
そう考えるとタナゴってソンという気がするよね。
でもでも、この本を読むと、ソンとかトクとか、そういうところをのりこえてしまっているように思う。さてさて、いったいどういうふうに考えて、こういうちがいをのりこえられたんだろう。ここはたいせつなポイントになるよ。
【友だち】
ちょっとか考えれば、この「ふたり」、せっかくのなかよしなのに、なんとなくこの先、あぶない関係になりそうだよね。
いつまでもなかよく……、とみんな思う。この「ふたり」もそうだ。だから食べて食べられる関係だということが教えられた時に気まずくなる。でもそれをしょうじきに言いあって、そして一歩前にすすむ。
この気まずさをどうやってのりこえたのだろう。これもさっきと同じ。たいせつなところだなぁ。
きっかけがあったよね。それを見つけてごらん。ヒントがある。答えはないけどね。
しかしこれは、魚の世界だけのことではないね。人間の世界もそうなんだよ。同級生どうしがおとなになって、てき・みかたになるっていうこともある。生きるライバルだもの。
なかよしっていうのは、いつもいっしょにいてニコニコしあっているだけじゃない。ほんとうのなかよし、ほんとうの友だちについて、この本では考えさせてくれるところがあるよ。考えてみるといいよ。
【生まれなければよかった】
「おれは、ライギョなんかに生まれなければよかった」「ぼくだって、タナゴじゃなければよかった」
この「ふたり」のセリフはいいよね。クライマックスだとボクは思うな。「なかがいい」っていうことは、たまにこんな気持ちにさせてくれる。
ぎゃくもある。生まれてよかった。知りあえてよかった、ってね。これはきっとりょうほうの気持ちが行ったり来たりしていくもののようにも思う。
この池の中。つまりは世界。そこでボクらはいずれいろいろな気持ちになりながら生きていくようになる。でもいまさら運命はかえられない。大げさかなぁ。だから、「自分を生きよう。自分を生きるしかない」。これだよ。
ボクらもそう。「……だったらよかったのになー」ということは思っても、できない。そうはならない。
ライギョは、友人のためにタナゴを一生食べないでいることができるだろうか。タナゴはどうせいつか食べられるなら、友だちのライギョに食べられよう、と思うだろうか。
ここはちょっと考えてみようよ。きみならどうだろうか……。
ボクは遺伝子をつごうのいいように組みあわせて、合体してライタナゴ(・・・・・)になりたいな。えっ、ムリ?それじゃあ、ライギョを食べるタナゴにヘンシンしようかな。体をきたえて、きん肉もりもりになって。
いやいやかしこくなろう。そしてかがくぎじゅつを身につけて、ライギョの教育をしなおして、考えかたを変えちゃおう。
タナゴを食べると病気になる、という考えかたを教えちゃおう。そうすればタナゴは安全だよ。
しかしそれも友だちをうらぎることになるのかなー。ぎもんだなー。こまった。
【やまなし】
このお話知ってる?「クラムボンが笑ったよ」とかいうやつ。このお話でもさ、魚が目の前でもっと大きな鳥に食べられて、「こわいこわい」ということになるんだ。
自然の中で生きている生き物はみんな不安さ。おびえているよ。でもちゃんと自分を生きている。それをボクらは学びたい。
この本でもニジマスとワカサギ。ナマズとザリガニ。食べたり食べられたりするドラマがすすんで広がっているよね。それを見たこの「ふたり」。ことばがなくなっていたよね。
ここだよ。ここ。
知ってしまった、勉強してしまった、という「ふたり」。なにを知ったか。なにを学んだか。生きる。死ぬ。食べる。食べられる。そういう生き物の世界のおきてを知ったんだ。
学校で教わったことと、生きていく世界とがつながっているね。こんな勉強なら楽しいし、考える世界も広がる。
ボクらも同じだね。毎日食べているものは生き物だ。魚。たまご。動物。植物。ボクらだって生き物をころして食べて、いのちをつないで生きている。
むかし、それがいやだと言って、水だけをのんで死んでいった人がいた。きみはこのことをどう思うだろうか。
ここでの「ふたり」のドキドキは、きみのテーマにもなっていくんだよ。それが感想文での中心になったりする。
【たまご】
百五十個のたまごの中でおとなになれるのは二ひきか三びき。これってすごいよね。あとはだいたい食べられたり、しんでしまったりする。
ボクらもあの、ホラ、「いくら」。あれってシャケのたまごだよ。しかも一つぶが大きなシャケ一ぴき。それを何つぶも食べる。ということは何びきものシャケを食べているのと同じなんだ。
それでも毎年、「いくら」は店にならぶ。生きのこったシャケの子どもなんだな。
じーん。としてくるなぁ。いのちをそまつにしちゃいけないなぁ、と思ってしまうよ。生きのこるのが少ないから、いっぱい生む。これも自然界のやくそくごとなのかもしれないね。どうだい?
そういう世界に生きてるんだよ。ボクたちも。
ハリヨに言われる。「あなたたちもそうですよ」。
このことばは重いね。じつはこの「ふたり」も多くの兄弟がなくなっていく中で、たまたまそだっていったき(・)せき(・・)のようないのちを持っていることに気づく。
【わき水】
「とまることなく、わきつづけるわき水」
ボクは、これってイメージだよな、と思う。このわき水はきっと「いのち」をあらわしているよね。次々に生まれてくるいのち。そしてなくなっていくいのち。でもつきてなくなることはない。こんこんとわいている。生きている、っていうイメージじゃないかな。
そしてそこで「ふたり」は「考える」。「考えて、考えて、考えて……」。
このページいいよ。きみもいっしょに「考えて、考えて、考えて、……」。
そして、なにかをピーンとつかんでみよう。
考える世界だって、このわき水と同じ。ふつふつふつ、ふつふつふつ、……。たくさんわいてこないかい。
ボクのさいのうもだよ。ムフフフフフ。
【もしも】
タナゴとライギョが「もしも」を言いあう。な、考えるっていうことは「もしも」にいきつくだろう!
この「もしも」の会話はいいね。
「生まれた魚がぜんぶおとなになったら」
→ さぁてどうなるでしょう?
きみの意見を聞きたいな。
「ライギョが池の魚をぜんぶ食べてしまったら」
→ さぁてどうなるか?
これもきみの意見を聞きたい。
ここでわらい出す「ふたり」。
ね、わかったんだよ。
なにが?なにがって、へへへ、それがこの話のたいせつなところ。ま、作者からのメッセージ(つたえたいこと)だよね。
「こまる」と言っている。でもそれだけじゃない。そこに自然のおもしろさがある。「よゆう」「ゆとり」「はば」「やりつくさない」「ほどほど」……。そんなことばが、ふとうかんでくる。
つまりは、生きるということをしんけんに考えたら、生きあう、ささえあう、ということがわかってきたんだと思う。
もっともっと、大きな大きな、はば(・・)やわく(・・)で、「なかよし」の意味があるんだな。「なかよし」の意味をもっともっと広げていったらどうなる?
大きな大きな「なかのよさ」を、ボクら人間も持ちたいよね。
なんか考えさせられる。これもいい作品だよ。ケッサクだな。よーし。考えて、考えて、考えて。
「人は……」「自然は……」「生きるってことは……」「『なかよし』というのは……」。これにくっつく文を考えてみよう。
魚の話だけど、魚だけの話にとどまらない。
ボクはだから「二ひき」って書かなかった。「ふたり」って書いた。これはボクのメッセージだよ。
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※出典:これできみも読書感想文の名人だ(2000年)
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ライギョのきゅうしょく
阿部夏丸・作 村上康成・絵 / 講談社