わたしたちの帽子

わたしたちの帽子

高楼方子・作 出久根育・絵 / フレーベル館

サキはお母さんといっしょに、街の裏通りにある古いビルにこしてきた。住むのは家の改装が終わるまで。臨時にひと月住むだけなのだけど……。

だれからも忘れられたような、古めかしい灰色のビル。ビルの中は、昔むかしの、しめったようなにおいがする。なんて変わった建物なんだろう……。ただ古いというだけではなく、どこか不思議なビルなのだ。

やだ、こわいよ、こんなところに住むの……。

サキの気持ちをよそに、ビルのとびらがぐいっと押し開けられた。不思議な物語のとびらが開かれたのだ……。

◎とっちゃまんのここに注目!

不思議な物語だ。まず注目したいのは、サキが住むことになった古いビルだ。

このビル、この物語の「もうひとりの主人公」だよね。

長い長い間生き続けてきた古い建物。そこには、過ぎ去った遠い昔のできごとや古い記憶がしみついている。ビルは、そんな不思議な時間の中にひっそりとたたずんでいるんだ。

ボクは物語に引きこまれて、何度かぞくっとしたよ。この物語、古いビルがつむいで見せてくれた、もう一つの世界なのかもしれない。世界の向こう側では、別の時間が流れているのかもしれない……。そんなことを思った。ちょっとこわいけど、すてきな物語だ。

・キルトの意昧と帽子の意昧

キーワードとして、「キルト」や「帽子」は見のがせないね。キルトは古いきれを集めてつなぎ合わせて作り上げる作品。そこにつなぎ合わせられているのは何だろう?これ、古い時間や思い出や記憶だと考えてみたらどうだろう?

サキがかぶったキルトの帽子は、ふんわりわくわくするような帽子だという。不思議なような、不思議じゃないような……。

そういう深~い意味のあるかけらひとつひとつがていねいにつなぎ合わせられて、この物語の世界ができているんだよね。

・サキが見たものは何だろう?

けっきょく、サキが見たものは何だったんだろう?絵の中の世界?物語のおしまいのほうに説明らしきことが書いてはある。だけど、それだけじゃないよね。見える人には、見えるはず……。

ボクは、サキが見た世界は、過去も現在も、現実も想像も、絵や夢や記憶も、

すべてがともにある世界だという気がする。

おばあさんたちの再会に重なるサキと育ちゃんの関係は、まるで合わせ鏡のようにも思える。

りくつではわりきれないことが起こったり、表と裏のようにぴったり重なるできごとがあったり――それが、人の生きている世界。古い不思議な時間は、これから来る新しい時間につながっているんだよね。

・探偵になろう!

ボクの感想を書いてみたけど、きみもこんなふうに、気になったこと、疑問に思うこと、不思議に思うことを、書き出してみてはどうだろう。そして、きみが探偵役になって、そのなぞをといていけばいい。とき方はきみ流でいい。そんな読み方をしてほしいな。

ボリューム十分、読みごたえ十分、なぞも十分。ボクはこの話、なんとなく好きなんだ。きみも、物語の世界にひたってほしい。不思議な時間の中に居合わせてほしいと思う。

※上記の著作権は宮川俊彦にあります。
※無断での転用・転載を禁じます。

※出典:読書感想文おたすけブック(2006年)

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わたしたちの帽子

高楼方子・作 出久根育・絵 / フレーベル館