夏目漱石・作 集英社文庫
「おれ」は親ゆずりの無鉄砲で、子どもの時から損ばかりしている。
同級生の一人が「二階から飛び降りる事は出来まい」とからかったといっては二階から飛び降りてこしはぬかす、ナイフの切れ味のいいところを見せようとしては指を切り落とそうとする、近所の井戸はうめてしまう、そのほか危ないこと悪いことはいろいろやったが、曲がったこと、ひきょうなことは大きらいの江戸っ子だ。
そんなおれをお手伝いの清だけ、どういうわけかかわいがってくれた。おれは物理学校を卒業してすぐ、清を東京に残して中学の数学教師として四国の田舎町に行くことになった。しかし、ここの生徒はひきょう者ぞろい、教師もそろって事なかれ主義。そんなやつらにおれはがまんできなくなって……。
◎とっちゃまんのここに注目!
言わずと知れた夏目漱石の代表作。
ボクは、漱石の才能や教養は、明治第一級のものだと思う。「作品を必要以上に持ち上げたのではないか」という見解や、「いや、今こそ再読すべきスゴイ作品だ」「漱石の中では『坊っちゃん』がナンバーワンだ」という意見など、漱石をめぐる評価はとにかくあれこれ山とあって、興味深い。さて、今の時代に生きるきみは、漱石をどう読むだろうか(もちろん、人の評価にまどわされずに)。
・坊っちゃんは何をしたか?
坊っちゃんは、何といっても威勢がいいし、気っぷがいいね。というか、やたら乱暴という印象を受ける。そして、田舎の風土や学校をこばかにしている。最後は、人をなぐり、ケンカして、バイバイ。
「坊っちゃんは何をやったの?」「何か変えたか?」、そういう観点から見ると、たぶんちょっとつらくなるだろうな。
だって、坊っちゃんは、松山で何をした?
そうなんだ……じつは、さして何もしていない。ただ教師として赴任してきて、旧態依然の風土とソリが合わず、ケンカし、たてつき、去っていく。将来や経歴に傷がつくと言われれば、「それがなんです。知ったこっちゃありません」と答えるのが坊っちゃんだ。しょせんは自己中心で、身勝手といわれてもしかたがない……。
いや、いや。坊っちゃんはここで何かをした。何かを見せて、何かを動かした。あるいは、「何もしない」ことに意味があった……そう考えてみようか?これは、『坊っちゃん』読解のポイントになるだろう。
・坊っちゃんの性格
坊っちゃんという人間を解き明かす意味で、忘れちゃいけないのが、お手伝いの清の存在だ。清って、かなりのキーパーソンだと思うよ。清のセリフや、坊っちゃんと清とのかかわり、清は坊っちゃんをどう見ていたかといったことをピックアップしてみると坊っちゃんのキャラクターがつかみやすくなる。そうそう、坊っちゃんが清の手紙を読むシーン、泣けるんだよねえ。「清」は、『坊っちゃん』の深読みポイントだよ。
・登場人物を読む
漱石という人は、登場人物に独特の性格をあたえている。それを読みとっていくのは、かなりおもしろい作業だろうね。単純で直情型の坊っちゃん、正義感の強い山嵐、陰湿な赤シャツ、内面を見せないうらなり、そしてマドンナ。これだけたくさんの人物が出てきて、どの人物も印象的という話はそうはないよね。人物相関図を作ってみるのもいいかもしれない。
また、江戸時代を引きずりつつ、西洋化を意識している登場人物たちが、そうした混沌とした意識のもとで何を考え、何を語ろうとしていたか。そんな 視点があってもいい。
坊っちゃんは何者だったのか。そして漱石は何者だったのか……?ボクとしては、きみたちには、こんな大きなテーマにいどんでほしいなあ。
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※出典:読書感想文おたすけブック