ダレン・シャン・作 橋本恵・訳 田口智子・絵 / 小学館
グラブス・グレイディは、生意気ざかりの少年。両親、姉のグレットとともに幸せに暮らしていた。ところがある日、あるおそろしい存在によって、その幸せな日々を断ち切られてしまう。
一家の前にぱっくりと口を開けた地獄、そして恐怖の世界。グラブスは現実と悪夢のはざまでひとり苦しむ。
そんなグラブスの前に現れたのは、パパの弟、ダービッシュおじさんだった。おじさんは何かを知っている……。グラブスはおじさんの暮らす屋敷に行くことにする。やがて、グラブスの一族のおそろしい秘密が明らかになり……。「ロード・ロス」とは何者なのか?グラブスは無事に生き延びられるのか?大人気作家ダレン・シャンがおくる、超大作ファンタジー。
◎とっちゃまんのここに注目!
読みだしたら、とちゅうでやめられない。ボクは一気に読んでしまった。 ファンタジーとも、冒険物語ともいえるな。
でも、こういうわくわくする本って、感想文を書くときには考えこんでしまうよね。作品の世界にひっぱりこまれて、その世界そのものを楽しんでしまうから(それが作者のねらいでもある)、いざ書くとなると、何をどう書いたら いいのか見えにくい。
コツの一つは、何がテーマか、「何が」「どう」語られているかを見つける ことなんだけど、「家族愛」「勇気」といった、よくあるキーワードで感想や 意見を組み立てようとしても、本のおもしろさとかけはなれていくような気がして、物足りなくなってしまう。ありふれた「いい子ちゃん感想文」を書くのもさけたいしね。
で、ちょっと頭をひねる必要が出てくる。ボクとしては、この作品に関しては、きみには少しばかり苦しんでもらってもいいかなと思う。
・グラブスが教えてくれること
ポイントをひとつ、あげておこう。
この本のクライマックスは、何といっても、グラブスとロード・ロスの息づまるようなチェスの対決だね。命がけだものな。
対決のさなか、グラブスはあることに気づく。それによってロード・ロスに勝利した。これだよ!
人がマイナスの感情をいだくと、相手はますますゆとりを持ってしまう。 こちらが心のあり方を変えると、相手の心も変わり、事態は変化する。そういうことについて、考えたらどうだろう。
ボクらの世界でも、「心の闇」という言葉が使われることがある。「少年の心の闇」とかね。それが事件の原因とされることもある。そんなとき、たぶん人は、マイナスの感情のとりこになっている。そこからぬけ出せないでいる。
そういった社会のできごとや自分の体験などもテーマにもりこんで考えていけば、この本の読解としては、なかなかのレベルまで行けるんじゃないかな。
・グラブスの立ち向かい方
悪魔が登場して、家族が殺されたうえ、狼人間までもが現れる――。背筋もこおるような、おぞましいストーリーではある。ページのあちらこちらに悪夢やのろいがしみついているような気さえするよね。
ところが、とちゅうから、みょうに明るく軽快な感じがして、読み進むのが楽しくなってくる。
これは、主人公グラブスの、運命への立ち向かい方によるんだろうな。ぺージのこちら側にいるボクらも、グラブスといっしょになって運命を切り開いていこうという気持ちになる。そういう意味では、「決意」という言葉も読解のキーワードになるだろう。
さてさて、感想をどう料理するかはきみの自由だけれど、この物語、じつは根っこはシンプルで、正統派という気がするんだ。一見、けばけばしい原色の世界をえがいているようでいて、透明感がある。どこかユーモラスなダービッシュおじさんや、まっすぐな性格のビルEもチャーミングだよね。
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※出典:読書感想文おたすけブック