決して予期していたわけではないのだろうけれど、タイムリーだよね。噴火したもの。もちろん富士山じゃなくて、あの有珠山(うすざん)がね。
きみも知っているよね。住民がみんなひなんして、新入学の子どもたちも苦労していた。
ね、自然ってこわいよね。自然ってすごいよね。
地球にやさしく、自然にやさしく、と言うけれど自然は決して人間にやさしくない。人間だけじゃない。この本を読んで思ったけれど、山にはいろいろな生き物がいる。植物も動物も。
ということはだよ、たとえば、クマは冬みんしていたのにマグマで熱くなってあわてて飛び起きる。「おっといけない、ねすぎたよ」とか言ってさ。しかし起きてみるとまだ雪がある。「えーとぉ」と、きっとこまってしまう。セミのよう虫とかヘビなんかもそうだよね。「あっつつ」と、一歩まちがえれば鉄板焼きになってしまう。そうそう、リスなんかも木の中にいたら熱い水蒸気がふき出してくるわけだから、ヘタをすれば絶望的なサウナじょうたいだよね。
ウサギだってこまる。タヌキもこまる。木だって、コケだって、こまる。
こういう自然界で起こることを、この本を読みながらそうぞうしてごらん。自然というけれど、このもり上がった大地、そしてニキビのような火山。そこにへばりついて生きている生き物の運命。人についてだけじゃない。多くの生き物のことに思いをめぐらせながら考えていくと、すごいスペクタクルドラマがくり広げられる。それをそのまま書いていくのもいいんだ。絵でもいい。この本はそれだけのじょうほう量がある。さすがは「かこさとし」さんだ、というところかな。
【火山】
きみ、どう思った?この富士山の本をざっと読んでみて。あの大きくてきれいな日本を代表する名山の形も、くずれたりけずられたりしながら、いずれはボロボロになっていくんだよね。なくなることもある。
生きているんだよ、地球は。いつも動いている。
日本列島は全体が火山列島みたいなもの。いつどこの山がとつぜん噴火するかもしれない。今だって、もしとつぜん富士山が大ばくはつしたら、東京にも灰や火山だんが飛んでくる。
今回の有珠山も噴火が起こる前に予知があったから、けがをした人はいなかったけれど、予知ができなかったらたいへんだった。
人は科学で火山のことを知り、データをとって、何か起きる前にきけんを知ることができるようになってきた。動物はほんのうで知ることができるのだそうだ。
少しはきけんが遠のいた感じもある。でもまだ地震がある。こういう島に住んでいることを思うと、きみは背すじがピーンとすることはないだろうか。
作者は富士山噴火の可能性を語っている。きみはそれをどう思うかだ。ばくはつを考えてみるのもいい。
きみにとっての富士山を考えてみるのもいい。
自然はこわいというだけに終わらない。生きているものとして、きみがしみじみと心に感じたことや、思ったことを語ることができればおもしろいことになる。
【いどう】
伊豆半島は太平洋にあった島だった。それが近づいてきて本州とぶつかって山ができた。動いているんだよな。地球は、今も。
そういえば九州も昔は二つの島だったという。二つの島の間で阿蘇山(あそざん)が噴火して、大きな山になっていって、九州は一つの島になった、ということを聞いたことがある。
こういうことを知っていれば、旅行に行った時にも、ちょっと印象や感じ方・見方がちがってくるよね。
ハワイだって今、日本に近づいている。日本も太平洋におし出されている。毎年何センチという動きだそうだ。とすると、おもしろいことになる。もうハワイに行かなくてもよくなる。ハワイが日本にやって来る。いいなぁ。もっとも何万年かはかかるけどね。
この本のはじめの方に地球の大陸が動いている図がのっている。アメリカ大陸とヨーロッパはたしかにジグソーパズルのようにくっつくよね。だんだんはなれていったんだ。もっとはなれていくだろうな。だからアメリカの太平洋側はいつも地震が多い。山脈も多い。
この本一冊で理科も社会も勉強できるよね。こういう教科書があったらいい。
日本もくっついたり、もり上がったり、しずんだりして今の形になった。もちろん今の形で固まったわけではない。まだまだ変化し続けている。
うすい地ばん。動くプレート。その上に生きているボクたち。なんかたよりないよ。ましてやその上にビルを作ったりするのだもの。あぶないなー。どうしようか。トンネルも。地下鉄も。高層マンションも。人はなぜ……、という「ぎもん」がわいてきてしまう。どう?
【神の山】
きみは『百人一首』を知っているかな。本当はみんな覚えてもいいんだよ。昔の子たちも覚えていた。しかもそれでゲームをしていた。これがよく学び、よく遊びだ。学ぶことと遊ぶことは別々のものじゃない。いっしょになっている。こういう遊びかたをするといいんだがなー。今のゲームはあんがい遊ぶばかりで終わっているよ。
『百人一首』の中に、富士山を歌ったものがある。よーし、さがしてみようよ。それが感想文の書き出しになったりする。
昔から富士山は、日本の人たちにとって、かけがえのない山だった。きれいだしね。高いしね。神様の住む山、と思っても不思議はないよね。
今もいろいろな山に行ってみれば、ふもとや中腹(山の中ほど)や山頂(頂上)に神社があったりする。これは山岳信仰と言って、山そのものを「ご神体」にして、大切にする信抑なんだよ。
とつぜん噴火したり、じごくのような目に合わせたりするのも、山の神のいかり(・・・)と思われたんだろうね。神様になりやすいよ。
この本にのっている昔の人たちの歌はいいなぁ。同じ山を見ている人が昔もいた。けれどその人たちはもうとっくに死んでしまって、いない。
地球や山の命にくらべて人の命はなんて短いんだろう。でも歌は残る。そうだ、きみもいっぱい作品を残しなよ。今から一千年後の人たちがきみの感想文を読んで「なるほどなー」と感動する。先生にほめてもらうというレベルの話じゃないよ。
【歴史】
ここでわかるのは、歴史の本に富士山についての多くの記録がのっているということ。だから昔の噴火のようすなどがわかるんだよね。
記録。その持っている「価値」。記録は後の時代の人たちに、多くのヒントを与えていくんだよね。
この本の前半もこれは記録してあるものをもとにして語っている。「残すこと」の大切さがわかるよね。
【取材】
じっさいにさ、富士山に行ってみるというのはどうだろうか。そこで溶岩(ようがん)からできた岩をさがしたり、植物を見たりとかね。
もちろん山を見たり、登ったり。そういうことをしていくことで、この本をさんこう書とかガイドブックとした観察ができる。
行ってみなければわからない、ということもあるしね。じっさいに行ったり、見たり。そこから感じたものがきみだけの感想文になる。「行動する読書」だよ。
別の山。きみの近所にある山に行って、この本と同じような観察レポー卜を書いてみるということもいい。りっぱな感想文になる。
と言いながら、近所のデパートに行って、観察というのもたまにはいいかな。これもまた現代人(今の世の人たち)が作りあげた山と言えば言える。ふもとでは けしょう品やくつ、中腹では服、上に行くにしたがって高級品、頂上には遊圏地、なんてね。
「高い」「見上げる」というものに人は心をよせる。み力やあこがれを感じる。大仏やウルトラマン、怪獣なんかを大きくしていくのも、にたようなことかもしれない。こんなところから何かを考えて意見にしていくこともできそうだ。
【自然】
雲の形がのっているよね。山に雲。これはいい勉強になる。きみも近所の老人に聞くと、「あの山にこんな雲がかかっていたら、明日は雨」というようなことをきっと言われると思う。
そこの天気や風のようす、自然の変化が雲によってわかるというものね。
ボクはこの雲の所が一番気にいった。きみはどう?
この本は多くの素材が入ってる。これは読者としてはうれしいよね。
ページ全体にたくさんのことが書かれている。絵や図もたくさんある。本当にいっぱい吸収できる。トクをした気分にもなる。
とくに今回は、有珠山の例がある。かつての阪神・淡路の大地震についてのきおくもある。だからこの本の読まれかたは、きみの工夫しだいでどうにでもなっていくように思う。
ウデの見せどころだよ。
感想というよりは、意見やレポート、考えや思いを多く語っていくといいと思うな。
※上記の著作権は宮川俊彦にあります。
※無断での転用・転載を禁じます。
※出典:これできみも読書感想文の名人だ(2000年)
—————————————————————————————————————————————————————————————————————
富士山大ばくはつ
かこさとし・作 / 小峰書店