六か月前――。バンパニーズと戦ったあと、ダレン・シャンの世界は音を 立ててくずれた。
「バンパニーズ大王はおれだ」というスティーブの告白、そして、クレプスリーの死。クレプスリーは二度ともどってこない――。もう生きようが死のうが、どうでもいい――。ダレンは絶望して、自分を見うしないかけていた。
だが、このままではクレプスリーだけではなく、ハーキャットまでうしないかねない。ハーキャットは「自分の正体」をつきとめないと、悪夢に苦しめられ、気がふれてしまうのだ……。
ハーキャットの正体は?ミスター・タイニーとは何者なのだ?予想外の展開につぐ展開で、途中でやめられない!超人気シリーズの第十巻。
◎とっちゃまんのここに注目!
出ました、ダレン・シャンの十巻目。ボクは今回、一巻目を読み直してみた。はじめのころのダレンは、どことなく頼りなく、自信もなさげ。シリーズを通して、相当しっかりしてきているね。ダレンがどんどん成長しているのがよくわかった。
人はどのように変化していくか?じつはここに、物語の大切な読解ポイントがある。物語は人を中心につむがれていくからだ。だから、主人公だけでは なく、脇役も含めて、そういう見方をすることが大切。
十巻目ともなると、初めからのいきさつや登場人物のキャラなんかがしっかり頭に入っているから、「この人はこうだった→こうなった」というような、図式でとらえることもできるようになっているはず。
読むときは、ワクワクドキドキ、おもしろかった!でいいけれど、感想文を書く場合には、この変化を明確にとらえることが必要。ダレンはどんな人間になっているか、それはどうしてか、ということだね。これまでの試練など、 エピソードのあれこれを思いうかべながら、ダレンの人間像に目を向けて みよう。
・ダレンVSボクたち
さて、前半では、クレプスリーの死をめぐってのダレンの失意、絶望がえがかれていた。親しい人の死という試練、そして、そこからの立ち直り。これらもまた、ダレンの成長には欠かせない材料だ。
ふと思った。なぜ成長しなくてはならないのだろう――。なぜこうも次々にハードルが課せられるのだろう――。これ、ストーリーをおもしろくするための作者のテクというだけのことではないね。形や種類はちがっても、ダレンの試練は、ボクたちが生きていくうえで遭遇することばかりだ。
バンパイアになることこそないが、ボクたちも血にしばられているとすれば、そして、自分が自分らしくありたいのであれば、ダレンの問題はボクたちの 問題だ。人の血を吸うこともないけれど、人からエネルギーや元気の素を吸いとって生きるということはある。人に与えることだってある。だとすればなおさら……そう、ダレンはボクたちと変わらない存在なのだ。
ダレンを、現実のボクたちにむりやり重ねようというのではない。こうとらえれば、ダレンとの接点ができ、ダレンをより深く理解できるということだよ。
・正体ということ
上級テクとしてのとらえ方をもうひとつあげよう。キーワードは「正体」だ。
人はいくつもの仮面をかぶって生きている。ボクたちは、人の一面だけを見て、この人はこういう人だとかんたんに判断を下してしまいがちだ。だが、 人の正体というものは、見えにくいものだ。本人でさえ気づいていないもの かもしれない。
大王のこと、ハーキャットのこと。この物語には、そういった、二転三転しそうな「正体」の気配がちりばめられているね。そこに注目すれば、見えてくるものがあるはずだ。もっと言えば、目まぐるしく展開していくストーりーの奥にあるもの、ストーリーの底に沈殿していきそうなものに目を向けてほしい、この作品の正体をあばいてほしいということだよ。
大作の感想文はむずかしい。攻略テクとしては、まず内容を超シンプルに 要約してみること。あるいは、前作までを捨てて、この本だけに的をしぼり こむこと。今回、ボクが、ダレンの変化ということにふれたのも、そのためのヒントだ。
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※出典:読書感想文おたすけブック
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ダレン・シャンX-精霊の湖-
ダレン・シャン・作 橋本恵・訳 / 小学館