カブトエビの寒い夏

耕平は小学5年生。クラスの生き物博士だ。父親は、化学肥料や農薬などをなるべく使わない農業をめざしていて、そのことにとてもほこりを持っている。

ある日、耕平は自分の家の田んぼで、三億年もの昔から同じ姿で生き続ける「生きた化石」カブトガニにそっくりの生き物を見つける。興奮し、飼育に熱中する耕平と親友の和彦だが、その不思議な生き物は実は姿が似ている「カブトエビ」だということがわかる。しかも、それは父親が田んぼに放したものらしい。

一体なぜ?どうも農薬を使わないことに関係がありそうで?

さらにその年はとても寒い夏で米がとれない。それによる事件がつぎつぎと起こり……?

 

◎とっちゃまんのここに注目!

この村の子たち、人たちの、農業生産への意気ごみのすごさと清らかさを感じたよ。「いいなあ!」と思った。

ところで、ときどきはさみこまれている日本農業の実態についての文、きみはどう思った?ボクは、将来の展望がもっと語られないとマズイと思う。もっと、将来に対する明るい指針がほしい。それらをどう見いだしていくか。そう、この本からきみの意見を引っ張り出すことが大切だと思う。

感想文には、なんとなく感じたことではなく、きみの意見を書いてほしいな。

 

・日本の農業

日本の農業は今大変なところに来ている。先進国で食料の自給率が必要量の半分以下なのは日本だけ。米の問題、輸入の問題……今のままだとすぐに、深刻な食りょう難が来る。

そして、なぜか日本では、いまだに農業がきらわれている。人は食べなければ生きていけない。その食べるという大切な領域をになっているのが、農業なのに。この主人公たちの村でも、たぶん後継者問題が浮上してくるだろうね。

こういう話をするのは、きみに、この本を読解するとともに、農業について真剣に考えてほしいからだ。

科学の最先端の技術を求められているのが農業だ。都市のビルの壁面をツル野菜の畑でおおいたい。東京の真ん中に畑があることこそ先進的だ。……たとえばボクは、こんなことを考えているよ。

 

・カブトエビへの思い

カブトエビは田と共存してきた。いや、三億年前、田もなく、人さえいない時代からずっと、変わらぬ姿で生きてきた。人よりずっと小さいけれど、じつはこの小さい生き物のほうが、生きるということにおいては人の先輩だ。

主人公たちは、カブトエビの生態についていいことを言っていたね。

「少しずつ生き延びている」、ここには、書き手の農業への思いもこめられているんじゃないかな。

 

・態度

「父さんは家で、めったに農業の話をしない。そのくせ人一倍研究熱心で、新しい技術を学ぶために農業試験場をひんぱんにたずねている」という。

耕平の父さんのこの態度、いいよね。農業は大きな自然が相手だから、成功も失敗も数多くあり、それがすぐ生活に影響する。安定した収入を望んで、農業をやめてしまうという事情もわかる気がする。

しかし、耕平の父さんの態度には、誇りと意思、自由と責任がある。命を支えるもとを作る、すばらしい仕事だという思いがある。

 

・さてポイントは?

ミミズの話、土を作る話、カブトエビの話。理科的な興味もふつふつわいてくる本だけど、何よりもまず、農業や、生産するということについて、真剣に考えたいね。ボクらは農業について、もっと深刻であるべきだ。発想も変えるべきだ。この本はそういう観点で読解してほしい。

 

 

※上記の著作権は宮川俊彦にあります。
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※出典:読書感想文おたすけブック(2002年)

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カブトエビの寒い夏

谷本雄治・作 岡本順・絵 / 農山漁村文化協会