ホスピタルクラウン・Kちゃんが行く

ホスピタルクラウン・Kちゃんが行く

あんずゆき・文 / 佼成出版社

 

舞台は病院(ホスピタル)。そこにサーカスに出てくるような道化師(クラウン)がいるのは場違いに思える。不思議な組み合わせだ。

読む前には、ミスマッチに思えるこの組み合わせが、読んだあとには、むしろ当然なんだなと思えるようになる。

きみもそう思ったなら、本を読むことで、きみの考え方が変わったということだ。そんな本がおもしろいんだ。

 

あっさりした文体で書いている。淡々と、病床(びょうしょう)に横たわる人たちを見つめている。

Kちゃんは病院で働いているけれど、医者でも看護師(かんごし)でもない。ホスピタルクラウンという名称の仕事があって、Kちゃんこと、クラウン・Kは日本の第一人者だという。

 

☆病院にクラウンがいるのは「なぜ?」

なぜ病院にクラウンがいるのか?そこを考えてみよう。

最近、ペット療法なんていう言葉も聞く。これまでは病気の治療だと考えられていなかったようなことが、治療の役に立つことが証明されはじめているんだ。

 

Kちゃんがやっていることもそれだ。日本では、まだほとんど知られていないという。

これを最初に採用した病院はすごい、そう思う。新しいことをして、うまくいかなければ批判される。

日常にも笑いは必要だ。笑いは人をリラックスさせたり、元気づけたりする。笑いは、いい影響を与えるんだね。

ここでは「人のくらしと笑い」「病気と笑い」「苦悩や苦痛と笑い」そういった観点で考えてみたらいい。

 

☆事実から、何が読み取れるだろう

立てなかった人が立てた。

しゃべれなかった子が話しはじめた。

ここにはそんな事実が書いてある。この本は実話だ。だからその事実の数や質が、こうした作品の生命線になる。

その事実を君はどう見る?そこに何を見い出す?

そこにあるのは笑いだけではない。人と人との交流がある。何が病気からの回復をうながしているんだろう。

なぜクラウンがいるんだろう?なぜ漫才とか、コントとか、お笑いが必要なんだろう?「なぜ?」と考えるんだ。

クラウンがやってくる。そのときに、しんどい日常からちょっとした異空間(いくうかん)に連れ出してもらえる。魂(たましい)が解(かい)放(ほう)される瞬間があるんだ。

日常に異質な体験が組み込まれることで、見方や考え方が変わる――そこに目を向けてみよう。人が求めていることとは何なのかが、ここから見えてくる。人間社会についての深い洞察(どうさつ)ができる。

 

「いやされているのは、自分のほうじゃないか」

これは、本の中で何回か語られている。いやそうとすると。いやされる。これはどういうことだろう?

 

☆いろいろな笑いがある

クラウンは人を笑わせる。その笑わせ方に着目してみよう。

クラウンの笑いとは、自分が笑われることなんだね。

人を笑いものににする、そんな冷たい笑いとは大ちがいだ。

自分が笑いものになって、人を笑いに誘う。これができるのはなぜだろうか。

そこには、Kちゃんを演じている大棟(おおむね)さんの生き方が反映しているはずだ。そこをきみは読み取らないといけない。

 

☆病院とは……

この本を読んで考えたことがある

病院がもっと楽しくて、明るくて、笑いがあって、刺激があって、そんな場だといいと思った。

病院では、静かに寝ていたらいいんだろうか。病院こそ、異質で異様な刺激的(しげきてき)空間(くうかん)だっていいんじゃないだろうか?その方が元気になる人もいるんじゃないか。

異質なものは人を刺激する。クラウンもそうだ。クラウンは病院の治療にはなかった「笑い」のほかにも、人を元気にする異質な、材料はありそうだ。そんなことを考えてみてもいい。

 

ボクも週に三回、病院に通っている。そこではいつも冗談を言い合って、笑っている。

病気に立ち向かうには、楽しく前向きになることだ。暗くしずんでいたってしょうがない。

苦痛の中に笑いを提供する。すごいことだ。人を笑わせることは大変なことなんだ。

エピソードひとつで人は変わる。気分が変わると、同じ光景がちがって見えてくる。

今回の課題図書『天風(てんかぜ)の吹くとき』も、そんなことを考えて読んでみると理解が深まるだろう。

本の読み方には、別の本とつなげて読む、という方法もあるんだよ。

 

作家がテーマにするものは、人にとって根本的な問題なんだ。だから本と本はつながっていく。課題図書だけじゃなくて、ほかにきみの知っている本にもつながっている。そういう読み方もいいね。

 

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※出典:読書感想文書き方ドリル2001(2011年)