千広と弥生は小学5年生。千広は、仲良しからはチロと呼ばれている。音楽の時間、チロは先生のピアノに合わせて歌を歌うことができなかった。それを知ったお母さんに、むりやり音楽教室に通わされる。
音楽教室の帰り、チロと弥生はバスの中で、大声で歌うへんなおばあさんを見た。チロは、おばあさんが老人無料パスが見つけられなくて困っているのを見て、探すのを手伝ってあげたのだ。
バスから降りたとき、千広は男の子に「ありがとう」と声をかけられた。男の子は丸刈りで、冬だというのに白いランニングシャツと半ズボン姿。
でも、いっしょにバスをおりた弥生には、その男の子の姿は見えていなかったのだ。
◎とっちゃまんのここに注目!
人って、人の心の中に住んでいるんだよね。思い出の人は、心の中に存在している。思い出の人は、心の中で年をとらない。
「心で見なくちゃ、かんじんなものは目に見えない」。これは、『星の王子さま』に出てくる言葉。ボクはこの言葉を思い出した。「心で見なくちゃ」の意味が、なんとなくつかめるような気がしてくる、そんな本だ。
・おばあさん
バスの中で大声を上げて歌っているおばあさん。パチンコの景品交換所の狭いボックスの中で働いているおばあさん。
この人の過去はドラマチックといえるよね。ずっとなくしてしまった子どものことを思っている。子どもを心の中において、おしゃべりをしている。その子は、なくなったときの年齢のままで生きている。そうだろうね……。昔はこういう過去を持つ人って、多かったんだろうね。
このおばあさんは、これまで何をささえにして生きてきたんだろう。おばあさんにとっての生きるためのともしびのようなものって、なんだったんだろう。おばあさんは、どうしてバスの中で歌えたんだろう?変わり者だからだなんて、ひとくくりになんかできないよね。歌ったあとのなみだがせつないよね。
そしてこのおばあさんの問題は、ボクら自身の上にもはね返ってくる。ボクらが生きていくためには、何があればいいんだろう。そんなテーマにもつなげて考えていきたいものだ。
・心の中の住人
おばあさんの心の中にいる男の子は、主人公チロの中にもうつり住む。これって、幽霊ではないよね。おばあさんが病気ってわけでもない。
こんなことって、よくあるんじゃないかな。ボクらだって、想像の中でだれかと話したり、だれかと何かをいっしょにしたりすることがある。
「ひとりじゃない」、そんな感覚を持つこともある。目には見えないけれど、ご先祖様だって、そばにいてくれるかもしれないじゃないか。
時として、心の中の声や叫び声が聞こえてきて、ハッとすることだってある。
この、「だれかいる」感覚というのは、自分の心の中に「心の人」を存在させることができる、ボクらの心のはばやあたたかさ――なのかもしれない。あるいは、ボクらの願いなのかもしれない。
・歌
チロはへたでも大声で歌えるようになっていくね。これって、この本のテーマに関係あることだと思う。自信や勇気、思い切り。そんなキーワードがうかんでくる。
そして、歌についておばあさんがいったことって、お父さんがいっていた勉強のこととも関連している。ここ、ポイントなんじゃないだろうか。
あれこれ細かいことにとらわれず、ある意味、開き直って「自分」を生きていく――そのための勉強であり、そのための歌なんだ、ということだよね。
うん、こういうことって、ボクらの生き方や勉強観にもしっかりつながることだと思う。きみは、どう「自分」を生きていく?
※上記の著作権は宮川俊彦にあります。
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※出典:読書感想文おたすけブック(2001年)
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チロと秘密の男の子
河原潤子・作 本庄ひさ子・絵 / あかね書房