すてねこタイガーと家出犬スポット

すてねこタイガーと家出犬スポット

子ねこのタイガーは、袋の中にほうりこまれて、深い森におきざりにされた。すてられてしまったのだ。なんとかして母さんのいる家に戻らなければ・……。いっしょにすてられた妹のタッセは、ねむったままうごかなくなった・……。 つらい旅の始まりだった。

ひとりぼっちになったタイガーは、ある日、「そいつ」に出会う。そいつは、大型の犬で、頭からしっぽまで、白地に黒のぶちがちらばっている。二ひきはしばらくにらみあった。そして……。

犬とねこが主人公。ノルウェーの冬の森を、すてねこタイガーと家出犬スポットが、安住の地を求めて旅をする。二ひきはともに暮らせる飼い主に出会えるのだろうか。出会いと別れ、あたたかな友情が心にしみる物語。

◎とっちゃまんのここに注目!

この本、ストーリー自体はいたってシンプルだ。すてねこと家出犬が二ひき連れだって、いろんな人間とかかわり、世話になったり、世話をしたりしながら旅をして、最後に生涯の家を見つける――そう、二ひきの居場所探しの話と言っていいかもしれないね。

とすると、第一の疑問。この犬とねこのこと、当然、人間の問題としておきかえていいと思うが、では、人間にとって、居場所とはなんだろうか?居場所に必要な条件とは?ここに焦点を当てると、この話の根幹が見えてくるだろう。

第二の疑問。二ひきはおたがいにとって、どういう存在なんだろう?ストーリーを追ってみると、二ひきはいつも、相手にとってプラスになることをしあっているよね。それって、相手に気に入ってもらうためだけじゃないようだ。相手を一方的な愛情の対象として見ているんじゃないんだよね。

ボクには、二ひきは支えあい、助けあって、たがいにたがいを必要としているように見える。このあたり、きみのメスを深く入れてほしいところだよ。

ぎみの居場所は?

まずは、居場所を、自分自身の問題としてとらえてみるといい。きみは家にいて、これが自分の役割だ、こういうことで自分は役に立っていると思えることがあるだろうか。そういうことがなんにもなくて、ただパパやママの指示通りに生きているだけというのなら、きみのいるところは、居場所として苦痛だろう。居場所には、おたがいを必要とする関係やつながりがあってほしいよね。――これ、『海で見つけたこと』にもつながるテーマだな。

・二ひきの知恵と営み

二ひきは野生動物ではないから、自分たちだけでは生きていけない。だから知恵を働かせる。どうすれば気に入ってもらえるか、どうすれば愛されるか、どうすれば長くおいてもらえるか。そこで生きていくしかない存在の、冷徹な営みだ。

ともすれば人間はこれを忘れる。たぶん、きみもだろう。「当然」という毛布にくるまれていて、本当のことが見えなくなっているからかもしれない。甘えがあるのかもしれない。この本をきっかけに、自分をかえりみる必要があるかもな。

・どう生きていく?

また一方、世界中で、タイガーとスポットのような、いわば「ストリート・チルドレン」が増えているのも事実だ。そういう子たちは、生きていく意味や自分の存在の意味を、問わずにはいられないだろうね。それこそ冷徹な営みの日々だろう。頼るものがない世界で、どう生きていくのか……。

タイガーとスポットも、甘えあっているようでありながら、じつは、とてもけなげに生きる術をつかもうとしているよね。この点を、この物語の中の大きな一本の柱として読みとってほしいと思う。

それにしても……。人はやはり家に帰るしかないのかなあ。だれかに頼らないと生きていけないのかなあ。あれこれ考えこんでしまったよ。きみはどう思う?

さてさて、本はいつだってボクたちの鏡だ。本を読み、考えることを通して、自分や人間、世界について読むことができる。その意味でも、この本はいい。重いテーマをふくんだ、きみの力量が試される作品だよ。

 

※上記の著作権は宮川俊彦にあります。
※無断での転用・転載を禁じます。

※出典:読書感想文おたすけブック(2004年)

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すてねこタイガーと家出犬スポット

リフ・フローデ・作 木村由利子・訳 かみやしん・絵 / 文研出版