ぼくはかげの子、かげまる。五年前、けんたくんが生まれたとき、けんたくんのかげの中に生まれた。それからずっと、けんたくんのかげの中に住んでいるんだ。
だけど、このごろ、ちょっと変なんだ。けんたくん、ぼくがいることをわすれちゃったみたい。どうすれば、けんたくんとずっとなかよしでいられるんだろう?
先ぱいのかげ、シャドウさんは、旅に出て、一人前のかげになって帰ってくればいいと言う。
シャドウさんの教えにしたがって、ぼくは旅に出ることにした……。
◎とっちゃまんのここに注目!
もしもかげが生きていて、意志をもってしゃべったら……。これがこの物語のモトになっているアイデア。おもしろいよね。物語は、こういうアイデア一つで広がっていくんだね。
「かげは光がさえぎられてできるものでしょ。生きてるわけないじゃん」
な~んていうカタイ頭だと、このお話は楽しめない。作者のメッセージも読みとれないぞ。
なぜ作者はかげに命をふきこんだのか、考えてみてほしいな。かげにも命をあたえてみれば、見えてくるものがあるってことかもしれないね。
・かげまるの旅は何のため?
シャドウさんはなぜ「旅に出ろ」と言ったのかな?かげまるの旅の目的はなんだろう?これ、この本の重要ポイントだよ。
かげまるは、いろんなかげを旅したよね。それぞれのかげになったときに、かげまるが何を体験したのか、何を得たのか、ひとつひとつたしかめておくといいね。
・かげまるってだれだろう?
そもそも、かげって何だろう?かげまるってだれなんだろう?
もしかしてかげまるは「自分自身」かな。それとも、「もうひとりの自分」かな。「自分の気持ち」かな。「人の目にうつる自分」かもしれない。
そういえば、「かげがうすい」とか、「かげになり、ひなたになり」なんていう言い方もあるよね。う~ん……。じっくり考えてみよう。
・けんたくんとかげまるの関係
けんたくんとかげまるの関係についてもさぐりたいね。
けんたくんは旅から帰ったかげまるに気がついてはくれた。でも、じつは、かげまるが思うほど、けんたくんはかげまるのことを思っていない気がする。これ、当たっているよね。
かげまるの思いとけんたくんの思いは、同じじゃないんだ。ちょっと悲しい話だけど。それどころか、このあとけんたくんは、かげまるのことをわすれてしまいそうな気配すらある。人と人(かげ?)との関係って、あやういものだね。
だけど、かげまるは旅をして、たくさんの新しい関係を作ったことで、救われている。人は人に、かげのようにしがみついてちゃだめなんだな(ボクの名言)。
とすれば、次のテーマも見えてくる。かげまるが帰るところはどこなんだろう?けんたくんのかげでいながら、けんたくんにしがみつかない生き方ってあるのかな?
この本、とても考えがいがある。あれこれ問題をあげてみたけど、その中のひとつについてだけでも考えれば、きっと何かをつかめるはずだ。
※上記の著作権は宮川俊彦にあります。
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※出典:読書感想文おたすけブック(2005年)
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かげまる
矢部美智代・作 狩野富貴子・絵 / 毎日新聞社