トウモロコシが実るころ

タイガー(ディオニッシオ)は十二歳の男の子。父さん、母さん、妹のコンチャ、ひいおばあさんと暮らしている。

村に、トウモロコシ畑(ミルパ)を作る季節がやって来た。ジャングルを切り開き、土地を焼き、種をまく。太揚と雨のめぐみを祈りながら収穫を待つ……。

トウモロコシは神様のように大切なものだ。主食になり、飲み物になる。時には布地や銃、薬と交換する。トウモロコシには家族の暮らしがかかっているのだ。

ところがある日、父さんが木の下じきになり、足の骨をおってしまった。

いったいだれが、トウモロコシを実らせるというのだ?家族はどうなるのだ?困りきっている父さんに、タイガーがいった。

「ぼくがミルパをこさえるよ、父さん。

◎とっちゃまんのここに注目!

舞台がいい。中央アメリカ――古代マヤ文明の知恵を持つマヤ族の物語だ。主人公タイガーは、父親のけがをきっかけに、男として、家族の柱として、たくましく成長していく。

タイガーは、ほんと、よくやっている。木を切り倒し、燃やし、トウモロコシの種をまき、見守る。たった一人で。男ってのは、きのうまでぐうたらでも、やるときはやるもんだぜ!ちょっとそんなことも言ってみたくなっちゃうな。

・考えるポイントは?

 「これからは食べものにこまらないかどうかはぼくにかかっているんだ。」

このせりふに注目だよ。二月に弟が生まれると、(ぼくの肩にもうひとりのしかかってきた。よし!)って思うよね。これだよ!

さて、タイガーがここまでの決心をしたのはなぜだろうか?ほんとは男も女もない。やらなきゃと思った者がやるしかない。そして、一つのことをやりとげると、つぎもやれるという気になる・それをみんなが評価しててくれる。支えてくれる。育ててくれる。

人は一人でしっかり者になるわけじゃない。だけど、本人の意志が決め手だ。ここに、時代をこえた、ボクたちへのメッセージがあるね。

 ひいおばあさん、なかなかしぶいね。決してタイガーをほめそやさない。得意になっていると、「いい気になってはいけない」とたしなめる。刀を名刀に仕上げる刀工のような雰囲気があるじゃないか。ボクは、この人がタイガーをしつかり者にしているような気がする。

ひいおばあさんと、きみのまわりの人たちとを比べてみるのもいい。人が成長する環境というものについても考えられるね。

3 「若者は暦と首っぴきで天気を予測し、年老いたものはじっと空を見あげ」という文があった。ここには、この本が示してくれる大事な姿勢が読み取れる。

本は大切だ。だけど、体験も大切だ。ジャングルのなかには、大切なものがすべて含まれている。何より、大地や空から学ばなければ――。

タイガーは仕事の後で勉強して、飲みこみが早いと言われる。たぶん、生きるために働きながらの勉強だから、体によくしみこむんだよね。机の上だけで考えても食べてはいけないということでもある。ガリ勉くんには、耳が痛い話かも。

 神の話がよく出てくる。キリスト教だけではなく、昔からの神を大切にしなければという村の人たちの思い、真剣に受けとめる必要があるね。

ボクたちも、大みそかや正月に昔からの神を祭ったりすることもあるけれど、ふだんは神の存在を感じながら生きているとは言えない。ピンとこないかもしれないけど――そうだな、神というものを、祖先とか、その土地を守る生命の大きな力とか、自然そのものへのおそれ、といった意味で受けとめてごらん。

その土地で生きる者は、土地の神や、神的なもの、いにしえからのきずなをおろそかにしてはいけないんだと、ボクは思う。

この物語、生き方だけでなく、文明や社会についても問題を投げかけているね。

何が残って、何がすたれていったか。タイガーの生きる村と、現代社会や日本とを比較してみるのもいいと思う。

得たもの、失ったものを、きちんと見極めることが大切なんだ。

 

 

※上記の著作権は宮川俊彦にあります。
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※出典:読書感想文おたすけブック(2003年)

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トウモロコシが実るころ

ドロシー・ローズ・作 長滝谷富貴子・訳

小泉るみ子・絵 / 文研出版