ぼくはおこった

こういうやつはおこらせたくない。あぶないやつだと思(おも)うな。でも本気(ほんき)になっておこったら、どんな人(ひと)だって何(なに)をやるかわからない。きっと、それぞれが、がまんしあって生(い)きているから、大変(たいへん)なことにならないんだ、ともいえるよね。

 

1.いかり

人(ひと)はおこるもの。おこることがないなんていう人(ひと)がいたら、気味(きみ)悪(わる)いよね。

毎日(まいにち)何(なに)かにバラをたて、ちょっとしたことに目(め)クジラを立(た)てている。自分(じぶん)の気(き)にさわった、おもしろくない、感情(かんじょう)をがいした……、おこる理由(りゆう)なんていろいろあるものだ。

おこるから、きげんのいいときがわかるし、やさしさもみえる。おこることはけっこうなことだ。何(なに)かよくないことなどがあったら、どんどんおこるといい。

君(きみ)はおこるよね。それはどんな時(とき)、どんなふうに。そしてその時(とき)、体(からだ)や頭(あたま)の中(なか)や、口(くち)の中(なか)や、見(み)えるものはどうなるの?

それをふりかえると、このアーサーのいかりは、はじめから終(お)わりまでよくわかると思(おも)うよ。

自分(じぶん)をかえりみることができると、いい文(ぶん)が生(う)まれるぞ。

 

2.一人のいかり

本気(ほんき)になっておこっている人(ひと)がいて、全地球人(ぜんちきゅうじん)よ死(し)ね~、なんて思(おも)われたらこわいよね。東京(とうきょう)の水道(すいどう)水(すい)にドクを入(い)れたり、海(うみ)にドク薬(やく)を入れたり、エイズよりももっとおそろしい病原(びょうげん)菌(きん)をつくったり、すいばくよりももっと強力(きょうりょく)なへいきをつくったり、みんながアホになる薬(くすり)をつくったりして。

一人(ひとり)だって、とんでもないことができてしまう。一人(ひとり)のいかりをバカにするといけないよ。世界(せかい)のれきしというのは、一人(ひとり)のいかりからつくられたことが、いっぱいあるんだ。一人(ひとり)のいかりが、ほんとうに世界(せかい)や地球(ちきゅう)をこわしちゃうかもしれないんだよ。

 

3.もうじゅうぶん

「もうじゅうぶん」というのは人(ひと)がいうことじゃない。自分(じぶん)が思(おも)うことだ。自分(じぶん)がもういいと思(おも)うまで、やっていってしまう。

これだけおこったらもういいだろう、気(き)がすんだろう、といわれることは、ホッとはするけれど、何(なに)やら小バカにされているようにも思(おも)えてしまう。

それでもずっとおこっていれば、きっと、そういっている人たちは、もう手(て)がつけられないや、といって去(さ)っていってしまうにちがいない。

もうじゅうぶんだろう。といわれているときに、ちょっとふまんでも、ホドホドにしておくことがいいということも、ここから考(かんが)えられるよね。

また、どこまでもおこりつづけていると、しまいには、まわりにだれもいなくなったりすることにもなる。君(きみ)はそんなことなかった?

 

4.なぜおこった

おこりたいからおこったんだ、といってしまえばそれまで。だけどおこったのは、おこっているということと、おこってみせているということと、二(ふた)つあるように思(おも)う。「もういいじゃない」といわれても、おこっているのは、おこってみせていることでもあるんじゃないかな。たぶんそれは、人(ひと)に自分(じぶん)の心(こころ)をわかってほしいと思(おも)っているんだよね。

だから、ずっとおこりつづけていると、みんながそっぽを向(む)くんだ。そして、ふと、「なんでおこったのかな」とひとり考(かんが)えこんでしまうというわけ。

 

5.がまん

なんでも思(おも)ったことをいったり、自分(じぶん)に正直(しょうじき)に、といわれるけれど、ほんとうに、正直(しょうじき)になって、おこりつづけていたら、きっと相手(あいて)にされなくなる。だから、どこかで自分(じぶん)をおさえたり、おこったのをのみこんだり、がまんしたりしていくことが、大切(たいせつ)だということになるんだ。

がまんできないで、心(こころ)のまま、思(おも)ったままふるまうと、みんなが気(き)をつかってしまう。そして、みんなが同(おな)じようにそうしてしまったらどうなるんだろう。

きっとどこかで自分(じぶん)をおさえたり、おさえあうことをするようになるはず。そうしてつくられてきたのが、いまの人(ひと)の社会(しゃかい)なのかもしれないよ。

がまんしすぎてもいけないけど、がまんできる人(ひと)ほど、きっと自分(じぶん)を強(つよ)く人(ひと)につたえたり、わかったりしてもちえる人(ひと)なんだと、ボクは思(おも)うな。

 

6.こわれる

おこっているときに、その気(き)もちだけを見(み)ていれば、自分(じぶん)しかみえないし、もうみんなコワしちゃえと思(おも)ってしまったり、じっさいにこわれてみえたりするものだ。自分(じぶん)だけが中心(ちゅうしん)になって、おこりくるっている。だからそのときには、人(ひと)のことばなど、耳(みみ)に入(はい)らないんだ。

すべてが人のかんじょうのままになると、自分(じぶん)もコントロールできなくなるし、ほんとに世界(せかい)がこわれてしまうかもしれないね。

 

7.こうかい

いかりがおさまって自分(じぶん)で気(き)がつくと、どうもたいしたことでおこったんじゃないみたいだ、とか、どうしてあんなにおこっちゃったのかな、と思(おも)うことはよくあるよね。なるほど自分(じぶん)たちのことをふりかえっても、そんなことはあったように思(おも)う。

こうかいして、おこることはよくないな、と思(おも)っても、もうおこっちゃったあとでは、元(もと)にもどらない。友(とも)だちもあきれちゃった、ということがある。そんな自分(じぶん)のけいけんをみつけてみよう。

そんなとき、君(きみ)が何(なに)を思(おも)ったかを書(か)いてみるんだ。

 

8.おこったときの心(こころ)の中(なか)

そうぞうしてみよう。おこっているときの頭(あたま)の中(なか)にうかぶもの、心(こころ)の中(なか)にうつるもの、アーサーとはちがうけれど、にているような気(き)がしないでもない。

「ぼくが(も)おこった。目(め)の前(まえ)のコップはむくむくとふくれあがり、それがとつぜんふん火(か)した。テレビは、中(なか)にいたのりピーがとつぜんとび出(だ)してきて、びっくりしていた。そののりピーのかみの毛(け)が全部(ぜんぶ)さかだって、ビリビリッと電気(でんき)がとおり、かみなりがつつんだ……」

なんてね、君(きみ)もアーサーと同(おな)じようにおこったらいい。そのときの心(こころ)の中(なか)や頭(あたま)の中(なか)のイメージを書(か)いていって、さいごに、二(に)~三行(さんぎょう)意見(いけん)を書(か)くと、これもケッサクになると思(おも)うよ。

 

9.おこらしちゃいけない

人(ひと)をおこらせない、このことが大切(たいせつ)だ、という意見(いけん)がでてきてもいい。その人(ひと)のいうことをきくのではなく、気(き)づかいながら、おたがいにおつきあいをしていくということ。大人(おとな)の人(ひと)や、おにいさんおねえさんなどの人(ひと)とのお話(はなし)や、つきあいをみてみるといい。それをかんさつして書(か)くと、なかなかおもしろいものができると思(おも)うよ。

それぞれ自分(じぶん)をどうあらわしているか、どう人(ひと)のいうことをきいているか、おつきあいの勉強(べんきょう)だね。

 

10.みんなおこる

アーサーもおこる。そして君(きみ)も、人(ひと)も、みんなおこる。どうしてそうなんだろう。おこってどうなるのかな、おこるってどんなことなのかな……、君は世界(せかい)の人(ひと)も、動物(どうぶつ)もおこることを知(し)っている。そうしたおこる人(ひと)、おこった人(ひと)、おこった動物(どうぶつ)、さかな、花(はな)、空(そら)……などをあれこれみつけて書(か)いてごらん。

そこには何(なに)やら、みんなにきょうつうするものがありそうだ。そこから、みんながおこってしまうわけもみえそうだね。

 

11.アーサーの長(なが)ぐつ

「なんでアーサーは長(なが)ぐつをはいているのだ。ぼくはおこった。ぼくは家(いえ)の中(なか)で長(なが)ぐつをはいてはいけないといわれている。だからおこった。この本(ほん)をみておこった……」

こんなことを書(か)いてみるのもいい。この本(ほん)や、アーサーのしたことや、絵(え)や、とにかくなにかに向(む)かっておこっていく。そんな書(か)き方(かた)も、楽(たの)しいものになるだろうね。

 

イギリスのロンドンに住(す)んでいる人(ひと)の書(か)いた本(ほん)だ。まちや家(いえ)の中(なか)のものも、イギリスふうだよね。この絵(え)について考(かんが)えてみるのもいい。

これは"心(こころ)の中(なか)の思(おも)い"を中心(ちゅうしん)にして書(か)くこと。心(こころ)の中(なか)のふうけいだと思(おも)うことだな。そこから、いろんな考(かんが)えが生(う)まれてくる。自分(じぶん)を書(か)いていくと、うまくすすめられると思(おも)うよ。

 

 

 

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※出展:きみにも読書感想文が書けるよ(1989年)

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ぼくはおこった

ハーウィン・オラム・文 きたむらさとし・絵・訳 / 佑学社