鶴(つる)になったおじさん

まずは読んでみよう。二(に)~三十分(さんじゅっぷん)で読(よ)めちゃうよ。

この本(ほん)を読(よ)んで、「あのさあ、ツルの肉(にく)っておいしいのかなあ」などと言(い)ったら、みんながおこってしまうか、とんでもないやつだと、さげすまれてしまうだけだろうね。だけど、どうもそんなことが、深(ふか)い所(ところ)で疑問(ぎもん)としてでてきてしまう本(ほん)だ。それはこれからお話(はなし)するとして、まずはいくつかの、この本(ほん)の読(よ)み方(かた)について、切(き)り口(くち)をあげてみよう。

 

1.しぜんほごのあり方(かた)

ほろびつつある動植物(どうしょくぶつ)、人(ひと)がやたらにとってしまったために、ぜつめつしてしまった動植物(どうしょくぶつ)、人(ひと)の社会(しゃかい)、生活(せいかつ)のために、人(ひと)知(し)れずいなくなってしまった生(い)き物(もの)は、たくさんある、数(かず)知(し)れないともいえるほどなんだ。それをただかわいそうだなって見(み)てるだけでは、まったくいいかげんな感想(かんそう)になってしまうよね。

そこにとどまっているのはやめよう。それよりももっと深(ふか)く考(かんが)えてみることにしよう。

 

2.なぜツルはいなくなってきたのか?

人(ひと)のせい、他(ほか)の生物(せいぶつ)のせい、しぜんのへんか、それぞれに理由(りゆう)はあるだろうね。でもこの本(ほん)では、そのわけを書(か)いていない。君(きみ)たちが調(しら)べるといいね。

○ツルは世界(せかい)のどこに生(い)きているのか。

○今(いま)、何(なん)ばいるのか。

○ツルのはんしょく、子(こ)どもはへってるのか。

○どんな方法(ほうほう)で増(ふ)やすのか。

○もちろんなぜ少(すく)なくなってきたのか。

これらはこの本(ほん)からでなく、他(ほか)のデータや図書(としょ)から調(しら)べるしかないよね。また、君(きみ)自身(じしん)が「感想(かんそう)文(ぶん)を書(か)くんだ!」と言(い)って、動物(どうぶつ)園(えん)の園長(えんちょう)さんや大学(だいがく)の先生(せんせい)に電話(でんわ)をしたり、話(はな)しをききにいってもいい。

そんなこともまた、感想(かんそう)文(ぶん)の中(なか)に書(か)くことができるよね。

 

3.なんでほごしなくちゃいけないのか

いいじゃないか放(ほう)っておいても、それこそしぜんにしておいて、ほろんでしまうのがやはり運命(うんめい)なんじゃないか?という考(かんが)えが生(う)まれてくるということなんだ。この『鶴(つる)になったおじさん』を書(か)いた人(ひと)の、けんしんてきな世話(せわ)とどりょくにはすごいと思(おも)うけれど、そうまでしなくてはならない、そうまでしなくてはふえていかないということには、ちょっとむりがあるんじゃないか、と考(かんが)えていく道(みち)すじがあるんだよ。

それはきっと、だれも読(よ)みこむことはできないだろうね。書(か)いた人(ひと)のどりょく、しせいと、それにこたえるツル、それしか見(み)ていこうとしないからね。

ところがこの人(ひと)も、ツルの世話(せわ)を「もうやめよう」と何回(なんかい)も思(おも)ったことがある。そこでやめてたらどうなったか。そのほうがしぜんになったんじゃないか。やめなかったからどうなったか。ツルはふえた。でも、それはしぜんなんだろうか……。

血(ち)のついたけがをしたツルがあらわれる。しぜん界(かい)で放(ほう)っておけば、死(し)んでしまい、他(ほか)の動植物(どうしょくぶつ)のエサになってしまう。しかし、それを人(ひと)が助(たす)け、人(ひと)がなおし、人(ひと)がまもっていく。

どうもどこかおかしいんじゃないか、これでいいんだろうか……と考(かんが)えていくのはとうぜんのことなんだよ。

 

4.かほご

その疑問(ぎもん)からは、かほごということばがでてくる。ずっと人間(にんげん)の子(こ)どもたちに向(む)かって言(い)われてきたことばだったんだけど、今(いま)や動物(どうぶつ)にまで言(い)われているんだ。このことばを使(つか)っていくこともできるよね。

 

5ペット

今(いま)やペットブーム。みんな自分(じぶん)たちのすきな動物(どうぶつ)をかわいがる。イヌ、ネコ、君(きみ)の家(いえ)にもいるはずだよね。でも、その動物(どうぶつ)に対(たい)して、こっちがかわいがってやっているんだ、という思(おも)い上(あ)がりはないかな。カゴの鳥(とり)のように、その動物(どうぶつ)本来(ほんらい)のしぜんな生(い)き方(かた)を、人(ひと)が囲(かこ)いこんでかえてしまっているんじゃないのか。かわいがりさえすれば、めんどうをみさえすればいいんだろうか。

 

6.美(び)

ほろびていくものは、さいごにせいぜつな美(び)を示(しめ)すものだ。夕日(ゆうひ)、人(ひと)、ちりぎわのさくら……。

ツルは美(うつく)しい、みごとに美(うつく)しい鳥(とり)だ。だけど、それはほろびいくものの美(び)といえるものかもしれないね。

 

7.かんきょうはかい、おせん

人(ひと)が自分(じぶん)たちのくらしのために、川(かわ)や山(やま)をよごす。町(まち)をつくり、さんぎょうをおこし、げんりょうをよりたくわえていこうとする。その中(なか)でかんきょうやしぜんがこわされて、多(おお)くの動植物(どうしょくぶつ)は、そのえいきょうをうけて死(し)んでしまう。いや、ころされてしまうといってもいいだろう。それはしぜんはかいだ。しかし気(き)にいったものだけをかってにとり出(だ)して、ほごするのはどうだろう。それもひとつのしぜんはかいになるんじゃないのか。

 

8.人(ひと)の思(おも)い上(あ)がり・ごうまん

ゴキブリはころす。ダニも、牛肉(ぎゅうにく)のための牛(うし)も、ヒツジ、ブタもニワトリも。役(やく)に立(た)つから、食料(しょくりょう)のため、あるいは害(がい)だから、あるいは気(き)もちわるいから、あるいは気(き)にいらないから。そんなことでかってにころしてしまって、よいことをしていると思(おも)っているんだよ人間(にんげん)は。そんなことをしながら、かわいがるためのペット、クジラやコウノトリ、ツルなど、人(ひと)が気(き)にいったものは、ほごしていくんだよね。ころすものと守(まも)るもの、そのきじゅんは何(なん)なの?そこには人(ひと)の思(おも)い上(あ)がり、ごうまんさがあるんじゃないだろうか。

 

9.ツルがふえたら

今(いま)は、ツルはいい鳥(とり)できれいだ。それでほごしてずっとずっと人工(じんこう)しいくしていって、何(なに)おく何(なん)ちょうとふえたとかていする。地球上(ちきゅうじょう)をおおうくらいにふやしてもいいのか、いったいどこまで人工(じんこう)し育(いく)するかってこと。もしツルがふえすぎたら、きっと人(ひと)はツルをころしはじめる。ツルにたいしての見方(みかた)をかえてしまうだろうね。また、地球上(ちきゅうじょう)の生物(せいぶつ)を生(い)きていくありさまも変(か)わってしまう。人(ひと)は何(なに)をしたって、しぜんをはかいしてしまうんだよ。

 

10.人(ひと)は何(なに)を食(た)べているのか

人(ひと)は生(い)き物(もの)を食(た)べ、その命(いのち)をうばうことで生(い)きながらえているんだ。食(た)べるということで、その生物(せいぶつ)の命(いのち)を、自分(じぶん)の命(いのち)の中(なか)におりまぜていく。そしてその人(ひと)が、こんどは動物(どうぶつ)を助(たす)ける。いったいそこには何(なに)があるんだろう。動物(どうぶつ)を助(たす)けていきたいという人(ひと)の心(こころ)とは、何(なん)なのだろうか。

 

11.ツルは幸福(こうふく)

この本(ほん)を書(か)いた人(ひと)みたいな人(ひと)に出会(であ)えたツルは、きっと幸福(こうふく)だ。けれど出会(であ)えなかった他(ほか)のツルは、不幸(ふこう)なんだろうか。ここでも幸(しあわ)せ・不幸(ふしあわ)せについての考(かんが)えが生(う)まれてくる。

 

12.いいことをしている

人(ひと)はこうしたことをすると、いいことをしているなと自分(じぶん)でも思(おも)う。そう思(おも)わないまでも、やるしかなかったのかもしれない。それは、やることがいい、仕方(しかた)ないと思(おも)って、しんじてやっているから。そのことがこうした本(ほん)を生(う)み出(だ)し、テレビでまでうつし出(だ)される。世(よ)の中(なか)もこうしたことが、いいこと、あまりないこと、すばらしいことと思(おも)っているんだね。

いったい、いいことっていうのは、どんなところから決(き)まるんだろう。自分(じぶん)がいいと思(おも)っていても、人(ひと)からみとめられないものは、いいことになっていかないんだろうか。いいことはどうやって決(き)まり、どうやっていいことになっていくんだろう。

 

13.人(ひと)としぜん

人(ひと)は、しぜんの中(なか)の動物(どうぶつ)や他(ほか)の生物(せいぶつ)をころし、また、さまざまの動物(どうぶつ)をかって、育(そだ)ててはころし、生物(せいぶつ)を生(う)まれることから死(し)ぬまでかってにやって、しかも食(た)べているんだ。人(ひと)も人(ひと)のつくる町(まち)もしぜん、とすればそれによって、ほろぶものがいても、仕方(しかた)ないことじゃないか。人(ひと)は、人(ひと)である自分(じぶん)たちの未来(みらい)をなくしてまで、他(ほか)の生物(せいぶつ)のことを考(かんが)えられるんだろうか。

 

14.やめて、しぜんほご

とはいっても、知(し)っている動植物(どうしょくぶつ)や、たまたま出会(であ)った動植物(どうしょくぶつ)が死(し)にかけているときに、それをだまって見(み)ていることはできない。それが自分(じぶん)たちのせいもいくらかあったとすればなおさらだよね。だから助(たす)ける。いいこと悪(わる)いことよりも、自分(じぶん)としてはそうしたし、そうしようとしている。それがほごといわれるなら仕方(しかた)ないじゃない。ペットかもしれないけど、自分(じぶん)はそう(ほごといれれることを)する。

 

15.生(い)き物(もの)どうし

生(い)き物(もの)どうし、同(おな)じ地上(ちじょう)に生(う)まれて、同(おな)じ時(とき)を生(い)きていく。それがおもしろいよね。人(ひと)も動物(どうぶつ)もいずれは死(し)ぬ。だからどこかつうじあい、むすびつきあうんだ。人(ひと)と人(ひと)よりも、より深(ふか)いつきあいになることもあるよね。ということで、生(い)き物(もの)としての、なか間(ま)いしきをもつこともひつようじゃないかな。

 

16.ツルと人(ひと)

『ツルのおん返(がえ)し(夕(ゆう)つる)』をとりあげるのもいいね。ほうおん(おん返(がえ)し)についてうったえるのもいいし、また、ツルはなか間(ま)なのだ、とうったえるのもいいかもしれない。

 

17.むくい

この人(ひと)は何(なん)のほうしゅうをえているんだろうか。ツルの親(おや)になることで、何(なに)をえたんだろう、それとも君(きみ)は何(なに)をえられると思(おも)う?もちろん物(もの)ではない「何(なに)か」を考(かんが)えていくのもおもしろいね。

 

18.あまえ

ものすごくあまえさせていながら、ある時期(じき)がくるとつき放(はな)す。きびしさがあるから、あまえさせるだけあまえさせられるんだね。人間(にんげん)の場合(ばあい)を考(かんが)えてみよう。

 

19.かほごな人(ひと)に育(そだ)てられるツルのきびしさ

人(ひと)は子(こ)にたいして、たいていかほごなものだ。そんな人(ひと)がほごしているのが、ここではツル。そのツルは、自分(じぶん)の子(こ)にきびしくできるだろうか。

 

20.やってみること

考(かんが)えてばかりで、あれこれ迷(まよ)うより、やること、やってみること。これはじゅうようなことだぞ。

 

21.ツルはめでたい

名前(なまえ)にも使(つか)われる。鶴子(つるこ)、鶴男(つるお)、多鶴子(たつこ)……そんなことを書(か)きながら、めでたく八十年(はちじゅうねん)以上(いじょう)も生(い)きられる生命力(せいめいりょく)にあやかろうとした、人(ひと)のツルへのあこがれを考(かんが)える。

 

22.おまえならできる

作者(さくしゃ)の親(おや)が作者(さくしゃ)に語(かた)ったことを、作者(さくしゃ)がツルにしている。力(ちから)があるものやそなわっているものは、それを自信(じしん)をもってやっていくことで開花(かいか)していく。花(はな)はさく力(ちから)をもっているからさく。ツルもとぶ力(ちから)をもっているからとぶ。人(ひと)も自分(じぶん)の力(ちから)に自信(じしん)をもって、自分(じぶん)をいかし表(あらわ)すべきだね。

 

23.貴重

放(ほう)っておけばなくなるものを、放(ほう)っておくのも人(ひと)。すくおうとするのも人(ひと)だ。それが思(おも)い上(あ)がりだろうと、自分(じぶん)がしんじるところをおこなって、くろうしてがんばる。そこにもよろこびがあり、貴重(きちょう)な人生(じんせい)があるんだ。何(なに)をしなくちゃいけないか、人(ひと)はかならず自分(じぶん)の身(み)の回(まわ)りのしぜんや、社会(しゃかい)の中(なか)からこのことをつかみとる。

 

24.とべるツルととべないツル

ツルの子(こ)にとび方(かた)を教える作者(さくしゃ)。マネをしてとぶツルの子(こ)。でも、ツルの子(こ)が空(そら)で待(ま)っていても、作者(さくしゃ)はそこには行(い)けない。ツルと人間(にんげん)、ちがうのはあたりまえだけど、それは悲(かな)しいことでもあるよね。

 

今(いま)までのことを、ざっとまとめると、

どんな本か。

○ しぜん

○人間(にんげん)のおこない

○ しぜんと人間(にんげん)

○動物(どうぶつ)と人(ひと)

○人(ひと)の考(かんが)え方(かた)

 

テーマとして。

○ つながり、コミュニケーション

○ かち(よい、わるい、正(ただ)しい……)

○ げんかい(人(ひと)の、動物(どうぶつ)の、力(ちから)の……)

○意志(いし)(やること……)

○愛(あい)(その形(かたち)、すがた……)

○ ほご

 

こんなところかな。

 

作者(さくしゃ)のどりょくと愛(あい)によってツルがとび立(た)った。その愛(あい)はそれになりきること、マネではなくて、しばいでもなく……。

ということがふつうの読(よ)みだけど、それだとどうも、この作者(さくしゃ)のしていることや、それにもとづいたこの一連(いちれん)の読(よ)みとしては、あさすぎるし、マトもあやふやなものになってしまう。

君ら(きみら)の読(よ)みのシャープさで、いくつかの疑問(ぎもん)を出(だ)してみたらどうだろう。

原子力(げんしりょく)発電所(はつでんしょ)の問題(もんだい)。クジラそうどう。食肉用(しょくにくよう)のニワトリ、プロイラー。美人(びじん)タレントとしてのツル、黒(くろ)をきらう(死(し)の色(いろ))、ツルの世界(せかい)に入(はい)りこむ人(ひと)、ほんとうのやさしさとは。

いろいろなキーワードはいえるけど、ここはひとつ、君(きみ)らのさえに期待(きたい)するとしよう。

 

 

 

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※出展:きみにも読書感想文が書けるよ(1989年)

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鶴(つる)になったおじさん

高橋良治・文 / 偕成社