あやとりひめ―五色の糸の物語―

こんな五色の糸ほしいな。本のおわりの「五つのあやとりのあそびかた」にある「あやとり」をやってみた。ボクにはむずかしい。こんがらがってしまう。しかしすごい技術(わざ)だ。ほとんどまほうの世界だ。きみできる?

おぼえておくといいよ。外国の人たちにやって見せるだけでも、はく手かっさい。昔から受けつがれてきた、伝統のわざだものね。

勉強もいいけれど、こうしたこともぜったい大切。芸は身を助けるよ。ボクはギター。学生のころひきがたりのアルバイトで人気があったんだよ。学校に通うお金や生活のためのお金もかせいでいた。みんなができるものもいいけれど、みんながやってないものを身につけることも必要だと思った。

このストーリーはなかなかおく(・・)が深い。読みごたえあるな。

最後はめでたしめでたし。楽しんで読めるよくできた作品だよ。

 

【母】

五色の糸は母の身代わりかもしれない。それはすぐわかる。母の愛という ものはすごいよね。自分は死んでしまうけれど、そのかわりに糸をお守りに する。それがあれば生きていける。そんなメッセージがこめられている。

『一寸法師』のハリ(・・)とおわん(・・・)とおはし(・・・)のように。親が子どもにプレゼント していくものは、なにもおもちゃやふくだけじゃない。大切なものは「これがあれば生きていける」というもの。

だれだ?「金だぜ」と言っているのは。

きっとちがうな。

お金を残されても、役立ててうまく使う方法を知らない人は、いずれなく してしまう。「モノであって、モノじゃないもの」のように思う。なぞなぞ   みたい。

きみは、たとえば親から、この五色の糸ににたようなものをもらっている だろうか。「ことば」でもなんでもいいけれど。そんなふうに考えていくと  広がっていくよね。

 

【五色の糸】

やっぱりこれが中心。中心だよ。なんたって助けられているもの。「もくじ」を見てみよう。五つの色が書かれている。それで作ったあやとりの山や橋が そのままお話を作っている。

ねぇ、この子がいろいろなあぶない場面で、ピンチからすくわれたのは、   この「まほうのようなあやとり」のおかげだろうか。

そう考えるのってたんじゅんだよな。こう考えられないかな。

糸=意図=意志……知恵。

糸もあったかもしれない。しかしそれを使ってなんとかしようという気持ち(意図)や、はっきりとした考え(意志)がなければ危機(ピンチ)は乗りこえ  られなかった。

きっと自分で乗りこえたんだよ。打ち勝ったのさ。

山があらわれる。時にはカベを作らないといけないよ、という教え。

橋があらわれる。谷を渡らないといけないよ。時には自分ひとりでね、と  いう教え。

網があらわれる。くくったり、結んだり、とったりすることが必要だよ、という教え。

はしごがあらわれる。登らなくてはいけないよ。だれも行けないところにも、という教え。

船があらわれる。安全を求めないといけないよ、時の川や人の川をこいで 行くんだよ、という教え。

ね、ちょっと無理があるかもしれないけれど、こんなふうに考えることもできるよね。「なにかにたとえたもの」として考えるといいよ。深まっていくし、オリジナルが生まれていく。

 

【助ける】

そうなんだよ。とちゅうから、自分のためじゃなくて、ほかの人を助ける  ために、このあやとりのわざを使っている。これはポイントだ。

どうかすると、なんのかんの言っても自分のためだけ、自分さえよければ、という考えになってしまいがち。アヤは人のためにも使っている。

ここは一つの切り口。なぜだろう、と考えてみるといい。

自分が苦しい時にどうしたか、どんな気持ちだったかを知っているからかもしれない。

しかし、ちょっと見方を変えて、こんなことも考え合わせてほしい。助けることがいいことだと思ってやっているのは、本人としてはいい。また助けられたほうも、文字通り助かる。

しかし本当はアヤのように、自分でピンチを切り開いていくことが大切なんだ。そうしないといつも助けてもらえるという気持ちを持ってしまう。相手をダメにするボランティアもあちこちで耳にする(聞く)。

アヤのとった行動をどう思うか。これはじつは大問題だよね。

 

【信じる】

このことばがかくれている。アヤはいろんな目にあった。しかしそれは、  もちろん相手も悪いに決まっているが、最初はアヤも信じている。

夜、ねしずまってから包丁をといだりする鬼がいる。意地の悪い三人姉妹がいたりする。人はみんな悪いものだから、かんたんに信じちゃいけないと言ったならば、こんなにさみしいことはない。

といって、みんないい人だ、とも言いにくい。この殿様だって家来にだまされている。

「うら切り」が連続しているストーリーだと言っていいかもしれない。そこが気にかかる。

いったいこうしたキケンなできごとはなぜ起こるのだろう、と考えてみたらどうだろうか。そこにはきっと「信じる」とか「うら切る」とか、もっとおく(・・)にかくれていることばが見つかっていくと思う。

やってごらん。この本の感想文としては高いレベルの問題を見つけ出すことになるよ。

 

【しっと】

アヤという子はかしこい。そのうえ美人だという。母と死に別れてからひきとられた名主の家でもかわいがられる。そして家をつぐあと(・・)とり(・・)に、とさえ 思われる。それがはじめの苦なん。不安になった名主の弟がアヤを殺そうと する。鬼ババアはともかくとして、へびへの嫁入りのときも、三人の姉妹たちにしっとされることでわざわいをまねいている。

はしご(・・・)のところでは村の人たちに、「えたいが知れない」と思われる。

この子の苦なんは自分がかしこく、美人であることによって起きているとも言える。

じゃあ、アヤがかしこくも、美しくもなかったとしたらどうだったか。

ここにも切り口がある。考えてみるとおもしろい。

 

【シンデレラ】

ふと思い出した。同じような話だ。最後には幸せになる。王子様というけん(・・)りょく(・・・)者と結婚していく。それまでは血のつながらない姉たちにいじわる  される。

もしもシンデレラが美人でかしこくなかったら、そんな目に会っただろうか。

会ったかもしれないな。(ガクッ)

アヤとシンデレラの二人を比べて研究してみるといいと思う。

人はどうして人のことを「しっと」するんだろう。あこがれとか、いいなぁと思う気持ちが、そのまますなおに出せればいいのに、なぜかおれ曲がって ゆがんでいく。そしてその相手に対して「おもしろくない」という気持ちを  持つようになっていく。

これは男だからとか女だからとかは関係ないように思う。また年れいも関係ないように思う。人がつい持ってしまう感情なんだろうな。

きみも「しっと」の感情を持ったことがあるかな。そんな時のことを書いてみるのもいい。

するとこのアヤの出会った危機(ピンチ)は、かならずしもぐうぜんとは言えない立場から、ものごとを考えていくことができるように思う。

 

【なぜ幸福になれたのだろう】

結局のところこの問題になるね。アヤがいろんな目に会いながらも、結果としては幸福になった。なぜなれたの?

ボクとしてはそこをきみに聞いてみたい。

感想文は、作品の中で人をどうえがいているかを読み取って、それがどう いうふうにいかされているかを考えるのがポイント。このストーリーではきっと、人のえがかれ方にしょう点を当てて、考えるポイントとすることができるはずだ。

じっくり考えてみるといいよ。

 

【アヤ】

登場人物の名前は大切な切りロ。生きるということは、人と人とのつながりだ。人と人のからみあいもある。言ってみれば「あやとり」のようなもの。

一つの糸のつながりが、いろんな形になったり、いろんな力を生んだりする。

「五色の糸」は人かもしれないよ。

人と人とが「あやなすドラマ」なんてことを言ったりする。「糸」は「意図」だし、人だし、それぞれの「こせい」かもしれない。

こんなことを考えていくとこのストーリーが、じつはあやとりによって解決したというだけでなく、あやとりによって生まれたり、くり広げられたり、  というふうに考えていくこともできる。

からみあった糸のような人間と人間のつながり。時間や場所のつながり。 気持ちのつながり。

それらが合わさってこのストーリーもできている。「全体があやとり」だと見てもいいね。

 

【糸の助け】

もう一回もとにもどってみようよ。アヤが、糸によって、あやとりによって、助けられた。

いったいこの「糸の助け」ってなんだろう。

これについてのきみの意見が生まれてくると、この本の感想文はバッチリ。

やはりボクはここまでくると芥川龍之介の『くもの糸』に考えが行って  しまう。カンダダが登っていった糸。これもにたもののように感じてしまう。

どうだろうか。

もう一つヒント。あやとりの糸は結ばれている。輪になっている。はじめとおわりがないんだ。グルグル回る東京の山手線みたいにね。これも考えていくとなにかが出てきそうだ。

 

このストーリーはやっぱり深い。考えるほどにどこまでも読解と探求を進めていくことができる。すぐれた作品だよね。今回の課題図書はみんないい  センいってるよ。

何回読み返しても、そのたびに切り口やキーワードが見つかっていく。

考える材料としてはいい本だよ。ぜったいおすすめの本。

 

 

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※出典:これできみも読書感想文の名人だ(1999年)

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あやとりひめ―五色の糸の物語―

森山京・作 飯野和好・絵 / 理論社