ざしきわらし一郎太の修学旅行

今の日本には、ぜったいにこういう「ざしきわらし」が必要だ。みんながイライラして、目がつり上がって、いやーな事件ばかりが起こっている。

「ざしきわらし」は人の家にいて、その家を幸せにするという。ほしいよー。日本中でなくても、せめてボクのところにいてよー。

と、思わずとっちゃまんはさけんでしまいます。

きみもほしいだろ。いいじゃないか、「あにさん」とよばれて。弟分で。しかも「妖怪」ときている。ゲゲゲの鬼太郎よりは明るそうだ。

ロボット犬よりもほしい。

「日本は『ざしきわらし』を必要としている」。そんな書き出しだったらすてきだ。きみのセンスが光る。

 

【見える】

なんで、ざしきわらしが見える人と見えない人がいるのか。気になる人がいるのか。このざしきわらしは、おもしろい「なぞ」をかけているように思う。

じっさい、ゆうれいだって見える人と見えない人がいる。

ここが一つのポイントになる。ざしきわらしはいる。しかし見えない人には見えない。どういう人に見えるのか。きみの意見がほしいところだね。

資(もと)といっしょに新幹線に乗った。資は家出で、ざしきわらしは修学旅行。細かいことを言えば、本当は「ばつ」を受けているんだよね。

となりの「妖怪」。

なんで資にはわかったのか。そして「あにさん」と言われるような仲にどうしてなったのか。

心のすき間にすっと入ってくる。心の中にいつもいる。何かそんな感じがしてくるんだけどな。

 

【仲よし】

家出のきっかけはなかなか考えさせられる。

いじめられていた子を助けた。

資のとった行動は決して悪くはない。むしろいい行動。勇気ある行動だと思うな。

しかしそういう本来ならいいという行動が、資のお母さんやお姉ちゃんには感心しない行動に見える。そしていじめていた悪い側が学校に言いつけたり、さも自分たちがひがい者のように言う。

さすがに一雄はしっかりしているけどね。あとの連中は、もうどうしようもない。最近こんなケースっていっぱいあるよね。ボクも何回かけいけんしている。バカバカしくなることさえある。

そして結果的には「自分さえよければいい」「あぶない橋をわたるな」、これが大手をふって通りを歩いている。

きみはこういう考えをどう思うだろうか。

ボクはいやだね。だから、資の家出がよくわかる。

ちょっと口うるさい心配性のお母さんやお姉ちゃん。そのようすにうんざりして、「お父さんなら」と、資は思う。

「男」をいしきしているのはまたおもしろい。「男同士っていいんだよなぁ」なんて思ったりしている。

きみはどう? 「女」だって、今は資以上に「意志」がしっかりしていて、いいようにも思うけどな。

そして、東京から帰ってきてからの資と一雄(かずお)の短い会話。けっこういいジャン。

この話は、結局は友だちとのつきあい、ふれあい、そしてつながりについて、一つのメッセージを送っている。

そこを登場人物の人間関係図や性格をとらえながらたどっていくとおもしろいと思う。こせい的な登場人物の多い本だよね。

 

【お金・力】

お金をテーマにして考えると、前の本(『黒ねこのおきゃくさま』)と通じるものがあるよね。お金の力。

資が家出をする時も、お金が必要だった。

健康で仲よくという家族に、足りなかったのはお金。ざしきわらしはたからくじを当ててやった。そうしたらその家ではお金をめぐってのいがみあいが始まった。

よくあることだ。

ざしきわらしが、いいことと思ってやったことも、うら目に出てしまう。

何もなくても幸せ、あっても幸せ。

何もなくても不幸、あっても不幸。

幸せや不幸せは、いったい何によって決まっていくんだろうか。

ふと考えてしまった。

ざしきわらしの一郎太が、東京で泥棒にさらわれた時のこと。泥棒は、このざしきわらしの、不思議な力がほしかったんだよね。

無力なようなこの「妖怪」。ただつかまっている。なんで力を出さないのだろう。自分のために使っていない。

人のために使う。資のために使っている。これは何かを示しているように思うな。

お金には意志がない。人によって作られて、ただただ価値という力を与えられている物だ。しかし、それが多いか少ないかで、人の価値や力が決まったり、それをめぐってはんざいが起きたり、幸福になったり不幸になったりすることもある。

それは人の心が、人の考えが、人が作った仕組みがそうさせるんだよ。そんなことを考えてしまった。

ざしきわらしはその化身かもしれない。

 

【きっかけ】

ノブって子もいいやつだな。最初は「おいおい」と思ったけど、最後には深いつきあいになっている。

ここでざしきわらしは一つのきっかけになっていることがわかる。一郎太がいるからいろいろなことが起こる。結局は彼をめぐって話が進んでいく。いつのまにかやっばり主人公になっている。

彼を取り返そうとしてノブたちのグループと資は共同行動をしていく。ここから自然の友情が生まれていくよね。

ま、こうみていくと彼が人と人とをくっつけている。

最後にノブからの手紙。

「一郎太のせいかな。みんなが前より、にこにこしてくらし出したような気がする。」

これは象ちょう的だよね。

じっさいは、ざしわらしはいないかもしれない。でも、ぐうぜんやきっかけは時と場合によっては、「神様」や「妖怪」の役目を果たすのかもしれないね。

 

【よけなことはしない】

「よけなことは、しないことにした」。そうざしきわらしの一郎太は言っているそうだ。

なぜだろう。もっともっと日本中に住みついたらいいのに。ここだよ。

どうしてそう思うのか。これを考えてみたい。

おっとっと、きみが考えるってことだよ。

ボクわかーんない。……。

にげている場合じゃないよね。

自分の力で何とかしていけよ。たよるなよ。家出して、グチを言ってにげて、なんとかなるのかよ。

ならないよね。資もこのことで少しは大人になった。立ち向かうしかない、と「確信」を持つようになった。

人を幸せにしよう。それはできることなのか。やっていいことなのか。

一郎太はやはり考えたんだと思う。

自分で運命は切り開いていくものだ。

ならば、ざしきわらしはなんなんだ。もういらないじゃないか。どうだろうか。

いやいや必要だと思う。

何もしなくてもいいからいるべきだ。いるだけでいい。いるかもしれないと思うだけでいい。

そこに人をなごませ、安心させ、幸せにする力が生まれるのかもしれないジャン。

 

【写真】

ノブからの手紙に入っていた、この写真、何だろうね。何にも意味がないとも思えるし、いえいえ何かを語っているとも言える。

よく見てみよう。何か感じないかい。何か見つからないかい。

一郎太のはいているローラーブレード。そして仲間たち。公園。自然の木々。あいかわらずの着物すがた。古いもの、新しいものがごっちゃになっているよね。そして、ニッコリして、そしてしっかりちゃっかり生きている。人を幸せにしながら。

ウーム。昔ながらの、元気でやんちゃな子どものすがたそのものだなぁ。

一郎太がいるだけでいい、ってノブは言っている。

きみも同じだよ。

きみはね、きみはいるだけで、パパやママもまわりの人も幸せにしてるんだよ。

とかなんとか言っちゃって。でも、本当なんだよ。

 

さてさて、この本はストーリー(物語)としておもしろい。ワクワクする。いたらいいなのファンタジー。

見方によっていろいろなテーマが生まれやすい。

さがしてみようよ。ボクの書いたキーワードは手がかり。何から入っても、何を素材にしていってもいい。けれどきっと、ここにならべたキーワードはからんでいくはず。

ふふふふふ。

そうです!ボクもざしきわらしなんですよ。

信じないよな。あーあ。

 

 

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※出典:これできみも読書感想文の名人だ(2000年)

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ざしきわらし一郎太の修学旅行

柏葉幸子・作 岡本順・絵  / あかね書房