犬ぞりの少年

ウィリーは十才。アメリカ・ワイオミング州で、おじいちゃんと、小さなじゃがいも畑を作ってくらしている。

ある朝、おじいちゃんはベッドから起きてこなかった。「心の中でしか、治すことのできない病気」にかかったのだという。農場の運営、じゃがいもの収穫。がんばりやのウィリーに、次つぎにやっかいなことがふりかかる。何より、おじいちゃんの病気の理由が難題だった。

おじいちゃんの病気はぼくが治す――。ウィリーは問題解決のため、犬ぞりレースに参加することにする。しかし、ウィリーの前には、強敵ストーン・フォックスが立ちはだかっていた。

 

◎とっちゃまんのここに注目!

深いメッセージがたくさんこめられている本だ。最初から、大きなテーマがさりげなく差し出されていたね。

たとえば、「人の心の中でしか、治すことができない病気」。重いね。人が「生きたい」と思うようにするには、どうすればいいんだろう?

「お金でお礼ができないときは、人の手伝いを受けてはいけない。とくに友だちからはな」。これにもグッとくる。

聞いても調べてもわからないことがあるときの、「ほんとうによい質問を思いついたということだ!」というおじいちゃんの考え方もいい。

ここには、長く生きている人の、生き方のルールや知恵がある。生きていくうえでは、こういうことこそ大切なのかもしれない。

文中でピンとくる言葉に出会ったら、しっかりキャッチしよう。心にとどいた何かひとつを取り上げて、感想文を書いてみるのもいいと思う。

 

・ウィリーの強さ

税金をはらわなければ、農場を取られてしまう。だからウィリーは、犬ぞりレースに出て、賞金をもらうと決めた。負けるかもしれないことなんて、まったく考えていない。このウィリーの強い意志は、いったいどこからきているんだろう?

ウィリーはにげない。あきらめない。運命に立ち向かっていくよね。どうしてこんなに強いんだ?これ、きみのメスを入れてほしいところだよ。

じつは、ウィリーにかぎらず、人はもともと、きびしいところで生きている。こまったときに、人がなんとかしてくれるわけではないし、子どもだからと大目に見てくれるわけでもない。自分で考えて、運命を切り開いていくしかないんだ。古来、人はそうやって生きてきた。

物語の時代は多分アメリカの西部開拓時代。今とは違う時代だけれど、これが人間本来の世界だということをふまえておきたいね。

 

・先住民のプライド

ラスト・シーンにはジーンときた。ストーン・フォックスって、いいやつだな。初めはいやーな感じがしたけど。

ストーン・フォックスは、開拓民によって土地をうばわれた先住民だ。うばわれた土地を買いもどすためにがんばっている。しかし、今回はウィリーに勝ちをゆずった。それはどうして?これも、深く考えてほしいところだよ。

 

ボクはこの物語、好きだなあ。戦う人だけが持つ美学を感じる。開拓民や先住民が強く生きるすがたにしびれる。

犬のサーチライトという名前がまた、よかったな。サーチライトは、遠くまで照らしてくれる明かり。何を照らしてくれていたんだと思う?

さて、きみは何をつかみだすかな?どこにサーチライトを当てるかな?

 

 

※上記の著作権は宮川俊彦にあります。
※無断での転用・転載を禁じます。

※出典:読書感想文おたすけブック(2005年)

—————————————————————————————————————————————————————————————————————

犬ぞりの少年

J・R・ガーディナー・作 久米穣・訳

かみやしん・絵 / 文研出版