12歳の文学

史上初の小学生限定の新人文学賞、それが「12歳の文学賞」。第一回の募集には、二二〇五編もの作品が集まり、大賞は、追本葵さん(小学六年生)の  「月のさかな」と、井上薫さん(小学四年生)の「『明太子王国』と『たらこ   王国』」が受賞した。審査員の先生方は、「圧倒的な文章力にビックリ」、   「オリジナルな世界観がある」と大絶賛。やってくれるね、小学生!

この本には、大賞、特別審査員・上戸彩賞はじめ、全受賞作が収録されている。そのほか、受賞者インタビュー、小説入門講座、『バッテリー』のあさのあつこ先生の書き下ろし短編と、読みどころ&見どころが満載。

12歳だから書ける小説がある。12歳にしか書けない小説がある。ページを 開けばきっと、文学はこわくない、楽しいものだったんだと思えるはずだ。

◎とっちゃまんのここに注目!

ボクはこの賞の顧問なので、全応募作品に目を通した。まずは、果敢に小説にチャレンジした子たち全員に敬意を表したい。

感想をシビアに言うと、まず、審査委員にほめられようとしている作品はよくない。読者が心ひかれる作品にならないんだ。

応募作品がファンタジーにかたよっているのも、少し物足りなかった。新しいジャンルを開拓する意欲や工夫がほしいなあ。

大切なのは、人をハッとさせたり、考えこませたりするような挑戦。真似から入るのはオーケーだけれど(盗作は厳禁だよ)、常に「オリジナリティ」を意識する必要があると思う。自分の力を頼りに、挑戦するしかないんだ。これは、感想文にも言えることだね。

こんなふうに、掲載されている作品をきみらしく分析してみてほしい。「12歳の文学」があるなら、「12歳の評論」があっていい。もちろん、きみの「作家デビュー」にも期待しているよ!

・何について論じるか?

自分が気に入った作品を一つ選んで書いてもいいし、大賞二作を同時に論じてもいい。意見を展開しやすい作品を選んでもオーケー。

受賞作すべてを見わたして、「12歳の文学」について論じる方法もある。  きみが「12歳の文学」をどう読むか、興味があるな。小学生のきみはどんな  感想をいだくのか。書き手と同じ小学生としての、するどい見解を聞かせて ほしい。

それから、西原理恵子さんの漫画や、あさのあつこさんの「夏を見上げて。」を読んでの感想文も、当然アリ。すみずみまで読んで、題材を探してごらん。

・オリジナルの意見を組み立てよう

この本には、感想文を書くためのヒントもたっぷりある。単独の物語作品やノンフィクションの本にはない、作者のインタビューや対談、審査員の講評などがそれ。ボクの総括も載っている。

これらの記事を熟読してきみの意見を組み立てると、ハイレベルな読解ができるだろう。ただし、記事はあくまで素材や手がかり。小説と同様、きみの  オリジナル性が大切。友だち同士で対談やインタビューをして、感想を深めるのもいいかもしれないね。

・きびしい読者になろう

批評について、もう少し話しておきたい。大人は「小学生が小説を書いたのだからそれだけでえらい」というあまい見方をしがちだ。コテンパンに批評 することを、無意識にさけてしまう。しかし、小説という一つの土俵で、小学生だからとハンディをつけるのは、かえって失礼なんじゃないかな。

書き手と同じ小学生のきみには、ぜひ、本音の批評を加えてほしい。批評のための批評は必要ないけれど、えんりょも手加減も無用。そういうきびしい意見が「12歳の文学」を育てていくことになる。

感想文を書いた後は、きみも小説にチャレンジだ。来年はこの本で、きみの作品を取り上げることになるかもしれないね。「12歳の文学」から、新たな  作家が羽ばたくことを心から願っているよ。

 

 

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※出典:読書感想文おたすけブック

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12歳の文学

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