トロッコ

良平が八つのとき、小田原~熱海間で、軽便鉄道敷設の工事が始まった。

良平はトロッコで土を運ぶところがおもしろくて、毎日のように工事を見に行く。一度トロッコを押してみたくてたまらなかった。

ある日、良平は若い作業員二人に、「トロッコ押してやろうか」と声をかける。こころよく許された良平はうれしくてたまらない。トロッコを押し始めた良平は、「もう押さなくていい」と言われるのではないかと心配で、「何時までも押していてもいいか」と聞いた。「いいとも」二人の男は同時に返事をした。

最初はトロッコを押すのがうれしかった良平だが、竹藪をすぎ、海の見えるところもすぎると、だんだん遠くまで来すぎたことが不安になりだした。

◎とっちゃまんのここに注目!

芥川龍之介の作品。いいね、さすが名作だ。かれはとちゅうで自分の人生を降りてしまったんだけど、もっと長く生きて、すばらしい作品をもっとたくさん読ませてほしかったな。

あのころ(大正時代)の作家はやはりすごい。生き方、そして作品。作品の深いところに見えかくれする作家の問題意識というものも、さぐってみたいね。

 

・短編、そして名作

ものすごく簡単にいってしまえば、少年良平がトロッコに乗りたいと思って遠くまで行くけれど、おそいからもう帰れといわれて歩いて帰ってきたという、

それだけの話。短編だから、あっというまに読める。ところが、「ん?」と思って、また読み返してしまう。そういう作品。どうしてなんだ?

・トロッコと線路

小田原と熱海の問に鉄道をしく工事。トロッコというのは、工事用の材料を運ぶ手押し車だね。線路の上を移動するトロッコ。エンジンがないから、上るときは必死、下りてくるときは気持ちがいい。

トロッコや線路は、いろいろなものの象徴に取れるんじゃないかな。「時代」

ということかもしれないし、「世の中の流れ」ということかもしれない。「生きていく」ということかもしれない。「人の姿」ということかもしれない。

きみはどう感じただろう。

・良平を読む

良平は押していいといわれて、トロッコを押した。いつまでも押していていいというから、もっと押した。作業員たちにずっとついていった。それなのに、突然、「もう帰んな」。

良平にしてみれば「えっ!」だ。そりゃあ、いつまでもいっしょに押していられるわけはない。なんとなくわかってはいる。でも今までいっしょに来たのに。

「もう帰んな」――それはそうかもしれないが、あっけにとられる。おどろく。悲しい。そして、一人で帰るしかなかった。泣くしかなかった。

「彼は何と云われても泣き立てるより外に仕方なかった」――良平は侮に対して泣いたんだろうね?刻刻と変わっていく良平の気持ちに心をうばわれるよね。やはり、良平の心を読むべきなんだろうな。きみは良平をどう読む?会話文になっている良平のセリフに注目してみるといいかもしれない。

・現在

また今、良平は、突然このときのことを思い出しているという。今の暮らしや、都会での自分の姿……。なぜ突然、トロッコのことを思い出したんだろう?あのときのことがあざやかによみがえってくるのはなぜなんだ?今、自分はどこにいるんだ?人には帰れるところがあるのか?ボクは身につまされ、考えこんで、しばらくこの作品からはなれることができなかった。

さらりと読むことも可能だけれど、とことん深読みすることもできる作品。

名作ってそういうものなんだよね。何度も読み返してみてほしい。

 

 

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※出典:読書感想文おたすけブック

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トロッコ

芥川龍之介・作 / 岩波書店